カンヌ映画祭最高賞『ザ・スクエア 思いやりの聖域』の毒

シネマレビュー

「ザ・スクエア」

 リューベン・オストルンド監督の前作「フレンチアルプスで起きたこと」を思い出した。押し寄せる人工の雪崩に慌て、妻子を置いて一人で逃げた父親のように、今作ではインテリの主人公が自身の軽はずみな行動により追い込まれていく。対象が家族から社会に拡大した。エリートの傲慢ごうまんさ、軽薄さ、不誠実さを皮肉交じりに描き、昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲得した。

 クリスティアン(クレス・バング=写真右)は現代美術館の学芸員。地面に正方形を描いた「ザ・スクエア」という作品を、次の展覧会で展示すると発表した。そんな中、彼はスマートフォンと財布をすられる。スマホのGPS機能を使い、犯人がいるアパートを特定した彼は、全戸に脅迫めいたビラを配布し、財布などを取り戻そうとする。

 洗練された洋服に身を包んだクリスティアンは、美術館運営の中心人物だ。それなのに、どうにも軽い。窃盗犯に合理的な手法をとったつもりでも、住民の気持ちを顧みず、後でしっぺ返しを食らう。

 美術館も過ちを犯す。「『ザ・スクエア』は、信頼と思いやりの聖域」と掲げる理想は立派だが、貧困や格差に職員は鈍感だ。展覧会への関心を集めるため、宣伝材料として社会的に弱い「物乞い」を使うというPR会社の提案を通し、強烈な反発を招く。社会を導くべきエリートが、自身の行為に無自覚なのだ。

 社会の矛盾を提示しながら、オストルンド監督は大上段に構えない。映像にはどこか軽やかさが伴う。構図にはさほど凝らず、画面の中心に人物を据えつつも、観客との間に一定の距離感を保つ。周囲と距離を置き、シリアスになるのを避ける。そんな現代人の意識を表すようだ。だからこそクリスティアンは、窃盗事件で犯人扱いされたと怒る少年のむき出しの感情に触れてたじろぐ。

 練り上げられた脚本、映像だ。インテリを嘲笑しつつ、監督自身が一番知的。社会を俯瞰ふかんする目はどこまでも冷静で、空恐ろしい。

 終盤、美術館での夕食会にゴリラのような男が登場し、会場をかき回す。長すぎるし、明らかにやりすぎだ。白けた空気が会場に漂う。物語の展開と関係があるのかないのか、観客をはぐらかすこんな場面が時に現れる。そこに独特のユーモアがあり、オストルンド作品の魅力になっている。2時間31分。ヒューマントラストシネマ有楽町など。28日から。(大木隆士)