ダイアン・クルーガー「女は二度決断する」家族の苦しみ伝えたい

インタビュー

大きな決断を胸にしながら、幸せだった家族の映像を見るカティヤ(クルーガー)の表情は穏やかなものになっていく(c)2017 bombero international GmbH &Co.KG,Macassar Productions,Pathe Production,corazon international GmbH &Co.KG,Warner Bros.Entertainment GmbH

 ハリウッドで活躍する女優のダイアン・クルーガーさんが、4月14日公開の映画「女は二度決断する」(ファティ・アキン監督)で、爆弾テロで家族を失った母・カティヤを演じています。彼女が演じる母親の怒りや悲しみ、絶望から、ひしひしと伝わってくるのは、残された家族の苦しみ。ドイツ出身のクルーガーさんが、意外にも初めてドイツ語で演じた映画でもあります。作品にかけた思いを聞きました。

――テロやネオナチ、復讐と、題材はかなりハードです。オファーを受けた時の印象は。

 脚本を読んで、テロ行為そのものというより、残された人たちの悲痛な気持ちを描いている作品だと思いました。世界各地で起こっているそうした事件に、私たちの感覚は鈍化してしまっている。死者数も、数字でしかなくなってしまっているように思います。いかに残された人たちのことを考えていなかったのか見せつけられ、おなかの具合が悪くなるほどでした。

――撮影前には約半年間、テロや殺人事件の犠牲者家族から話を聞いたそうですね。

 被害者家族の自助グループに参加することができました。最初はあれこれ私のほうから尋ねていたのですが、そのうち、何も聞かない方がいいのだと分かりました。子供を失った悲しみは、誰でも頭では分かる。私は彼らの話にひたすら耳を傾け、彼らの痛みに心を開くようにしました。これが人間の苦しみだという感覚が脳裏にこびりつき、主人公を通して、彼らの気持ちを代弁しているんだという気持ちになりました。

法廷でカティヤ(クルーガー、右)は厳しい現実を突きつけられる

――主人公のカティヤを演じる上で、ファティ・アキン監督からはどのようなアドバイスがありましたか。

 役作りは俳優としての私の領域ですので、監督からあれこれアドバイスされることはありません。ただ撮影中、監督からは「カティヤは子供をなくした母親だからね」といつも言われていました。私は子供がいないので、「母親」というのは当初は抽象概念でしかなく、苦労しました。

ファティ・アキン監督(右)から演技指導を受けるクルーガー(左)

――映画の前半は悲しみ、絶望といった激しい感情を体全体で表現していたのが、次第に静かな、内に秘めた決意のようなものに変わっていくように感じました。

 撮影は物語に沿って、順番に行われました。涙を出して出して出し尽くすと、乾いてしまうんですよね、人間って。最初はテロの被害者、それが裁判が始まると、被告を有罪にするのだという使命感に燃えるようになる。ただ、判決の日には気持ちが粉々に砕け散って、空虚しか残らないような状態に陥ります。その後は、プカプカ浮いているような状態なんです。

――彼女は復讐を決意します。

 じっくり時間をかけて彼女の気持ちを考え、これは復讐ではないのだという考えに到達しました。途中、自殺しようとしますが、それも選ばなかった。生理が戻り、生命を営むことができる可能性も暗示されたのですが、それも選ばなかった。一人残された孤独な彼女が、唯一とれたのが、あの行動だったのだと思います。

(c)2017 bombero international GmbH &Co.KG,Macassar Productions,Pathe Production,corazon international GmbH &Co.KG,Warner Bros.Entertainment GmbH(上の4枚すべて)

――ラストに、カティヤは大きな決断をします。ご自身は同じ行動をとると思いますか。

 私自身、子供がいないので、究極的には答えられない問いです。この映画は問いかけだと思う。あなたならどうしますかということを、断罪せずに問いかけている映画だと思います。

――ドイツ語での映画出演は今回が初めてです。

 25年前にドイツを離れた。ドイツの映画に出演する機会は願っていたのですが、たまたま声が掛からなかった。今回、この映画に出演できたのも、たまたまフランスで、私がアキン監督に「あなたと一緒に映画を作りたい」と言ったのがきっかけでした。

――ハリウッド大作にも多数出演されています。ハリウッドとドイツの映画作りは違いますか。

 スケール感が違います。アメリカは何でも大きい。それに、大衆に訴えかけていくという意識が強いです。一方、欧州で映画を撮ると重きを置くのはキャラクター描写です。私はどちらも好きですが、皆で力を合わせ、共同体として映画を作るという欧州のスタイルがどちらかというと好きです。ハリウッドでは、非常にうまく機能する、機械の歯車の一つになってしまっている気がします。

――国際的に知名度のある俳優として、ドイツ映画に貢献したいという意識はありますか。

 今回、自分のルーツへ帰ることができたと感じています。自分のドイツらしさが、俳優としてのキャリアを支えてくれたのだと、あらためて思った。ある種の原点回帰をすることができた。自分がドイツ映画の代表者だという意識はないですが、ドイツの映画にはこういう可能性があるということを示すことのできる立場にいると思う。ドイツ映画も完璧ではなく、改善の余地はあるので、自分にできることはあるのかなと思います。

 現在は米ニューヨークを拠点とするクルーガーさん、母国ドイツに戻る予定は今のところないそうです。若い頃から、イギリス、フランスでも生活しましたが、特別なのはパリ。「一度住んでしまうとなかなか抜け出せない、特別な街」だそうで、今もパリに住む場所を確保しているそうです。

 今回は3月末、母親と一緒の来日で、桜見物を楽しみにしていました。(読売新聞文化部・大木隆士)

ダイアン・クルーガー(Diane Kruger)
女優・モデル

 1976年、独ハノーバー生まれ。英国ロイヤル・バレエ団でバレリーナを目指すが、けがのために断念。パリで、モデルとして活躍する。俳優学校で演技を学び、米国に渡ると、「トロイ」(ウォルフガング・ペーターゼン監督)や「ナショナル・トレジャー」(ジョン・タートルトーブ監督)、「イングロリアス・バスターズ」(クエンティン・タランティーノ監督)など、ハリウッド大作に出演。

「女は二度決断する」  独ハンブルクで、カティヤ(ダイアン・クルーガー)はトルコ系移民の夫と一人息子を爆弾テロで失った。夫には薬物売買の前科があり、警察は闇社会との関係も疑う。親族も、残されたカティヤに寄り添ってくれない。ネオナチの夫婦が逮捕され、裁判が始まるが、カティヤ自身の薬物所持が発覚したこともあり、思ったようには進まない。