「シェイプ・オブ・ウォーター」水が象徴するしなやかな愛

シネマレビュー

 第90回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞の4冠に輝いた一本。映画という表現の力を駆使して精緻せいちに紡ぎ上げられた、美しい愛の物語である。

 監督は、メキシコ生まれのギレルモ・デル・トロ。傑作「パンズ・ラビリンス」など、異形の生きものや不思議な存在を導き手に、登場人物あるいは観客の心の奥底を照らし出す作品を作ってきた。

 本作では、声が出せない女性と、水の化身である不思議な生きものの言葉を介さぬロマンスを通し、世界をひっくり返してみせる。混沌こんとんとした現実と格闘する物言えぬ人々の柔らかな感情を救い出す。

 1962年、冷戦時代のアメリカ。主人公イライザ(サリー・ホーキンス=写真左)は政府の極秘研究施設の清掃員で、とらわれの身の半人半魚の男(ダグ・ジョーンズ=同右)と心通わせるようになる。米国とソ連の宇宙開発競争の犠牲にされようとしていた彼を、彼女は救おうとするが、実験に執着する男、ストリックランド(マイケル・シャノン)が立ちはだかる。

 モンスターとの愛。荒唐無稽なようだが、イライザの夢とともに映画が始まるや、文字通り夢中にさせられる。色、光、音楽、繊細な感情描写、流麗な撮影、ミュージカルシーン、そして水! デル・トロは、見えるもの、聞こえるもの、映画的なるものを操って観客を魔法にかける。

 イライザはきちんと現実を生きる一方、日常に入り込むファンタジーを慈しみ、寝ても覚めても水(多分しなやかな愛の象徴)に包まれる感覚を求める。その感じ、わかる。そう思った時から彼女と一緒に恋する準備はできている。

 「彼」は美しい。マスクとスーツを着けて演じるジョーンズは、デル・トロ作品の常連。体躯たいくを優雅に操り、神々しさと野性を併せ持つ存在を演じ切る。女に恋する怪物は珍しくないが、その逆はそうはいない。イライザとは肉体的にも結ばれるが、水の中での愛の情景は見る者の心をも満たす。

 敵役ストリックランドは、己のために他者を力でねじふせようとする。進歩や繁栄を夢見た時代のひずみを体現する男である。現代とよく似た空気が漂うこの時代を舞台に、あらゆる境界を超える愛の物語をデル・トロが作ったのは、断じて偶然ではない。

 「美女と野獣」の物語では野獣は人間の王子に戻る。この映画でそんなことは起きないが、だから素晴らしいと思う。変わるべきは世界のほうなのだ。必見だ。2時間4分。日比谷・TOHOシネマズシャンテなど。(恩田泰子)