ジャズを通じて絆を深める3人の高校生をドラマチックに描いた、小玉ユキさんの人気コミック「坂道のアポロン」が実写映画化(三木孝浩監督)され、3月10日に公開されます。西見薫役で主演した知念侑李さん(24)に、ジャズピアノにチャレンジした思いなどを聞きました。

演奏シーンはお互いに刺激しあって
――原作の印象は?
アニメでも成功している作品でしたので、プレッシャーはありました。「大丈夫かな?」という不安もありました。原作は昭和を舞台にした少女マンガでしたが、甘い恋愛ストーリーばかりではなく、男性でも、僕の世代でも、共感して楽しむことができる作品だと思います。
――西見薫は、父を亡くし、長崎県佐世保市に引っ越してきて、「札付きの不良」の川渕千太郎(中川大志)と出会います。役をどう演じようと思いましたか?
千太郎という男にひかれて、あこがれて、一方で彼のエネルギーに反発して自分を出していくのが薫さんという人だと思いました。現場で大志くんと真剣にぶつかってみないと、どうなるかわからないなと。実際にお芝居をして感じたことを大事にして。事前にせりふは覚えてきますが、そこまで台本を読んで役を作りすぎず、大志くんとぶつかりながら役を楽しんでいければなと撮影前は思いましたね。
――演技について事前に中川さんと話し合いをしましたか?
役についてというより、演奏面で不安がありました。2016年の9月くらいから練習を始めました。練習は別々だったのですが、大志くんの練習での演奏を見ると、すごく上達が早く、「置いていかれそうだ」と心配がありました(笑)。でも、彼から刺激をもらったので、がんばらなきゃと思いました。逆に自分の練習も大志くんの刺激になればいいなと。
アイコンタクトでキュンキュン
ジャズセッションのシーンでは、僕たちは決められた曲だけを教えてもらっていますが、ジャズの「のり」で演奏している、という「てい」でやらなければならない。その「てい」が大変でした。高校の文化祭でのセッションのシーンで、二人が目で合図をし、次の曲にいくタイミングが難しかったのですが、撮影の合間に「ここでアイコンタクトを取ったらいいんじゃないの?」と練習し、撮影では楽しみつつ演奏することができました。
――アイコンタクトのシーンがありましたが、中川さんは演奏以外でも知念さんと目が合うと「キュンキュンする」と言っていたそうですね
アイコンタクトは、自分たちのタイミングもありましたが、ジャズの先生たちからのアドバイスもありました。目が合ったらいいなーと思って見ると、大志くんと目が合う。そこは二人だけの空気なんですよ。大勢の中で、二人の空気が合うとうれしいんですよ(笑)。目が合うと、気持ちが乗っていきます。音楽やセッションの魅力って、ここにあるのかなと感じました。
――ジャズにはまりそうですか?
そうですね。ジャズというのは自由で、どの小節の中で自分を見せられるのか、どれだけ遊べるかが大事だと、先生もおっしゃっていました。そこまで弾けるようになりたいなと思いました。先生がベースを弾いて「この中のスケールで弾けばなんでもかっこよく聴こえるからやってみて」とアドバイスをしてくれて、適当に弾いてみたら、なんかちゃんと音楽に聴こえるんですよ。ちゃんと演奏できるようになったら、もっともっとジャズを楽しめるようになるって。ジャズっていいなと思いました。
――スタンダードナンバーも多く、ジャズを知らない人でも楽しめますね
みなさんが一度はどこかで耳にしたことがあるナンバーがあるので、全くジャズを知らなくても、ジャジーな感じを楽しむことができると思います。
――知念さんのお気に入りの曲は?
うーん。なんだろうなぁ? ジャズじゃないですが、ZARD(ザード)の「My Baby Grand ~ぬくもりが欲しくて~」という曲が好きですね。Hey! Say! JUMPのメンバーの薮(宏太)と、疲れたときに二人で聴いて「やっぱりこの曲いいよなー」と、癒やされています。
――薫と千太郎、そして薫が思いを寄せる千太郎の幼なじみの律子(小松菜奈)と、主要キャスト3人の中ではいちばん年上でしたが、年を意識したことはありましたか?

いやー、そうなんですけどね(笑)。あまり年の差は感じませんでした。逆に気持ちの面で大志くんに頼ってしまったところもあります。僕をいじってきたりするところがすごくうれしかったりして(笑)。2人のやり取りを見ながら、同じテンションで菜奈ちゃんもしゃべってくれました。
――今回はオール地方ロケでしたが、なにか印象に残ったことは?
夜の学校の駐車場で、スタッフと3人で円になって「UNO(ウノ)」というゲームをやったことかな? ずっと一緒だったので、食事にもたくさん行きました。
――中川さんとは2度目の共演でしたが、新しい一面を見ることはできましたか?

仲はいいのですが、前回の共演は、ドラマ「地獄先生ぬ~べ~」で、関ジャニ∞(エイト)の丸山(隆平)さんが主役で、僕と大志くんは生徒役でした。今回は僕が主役でしたが、大志くんにいろいろと助けられて、頼もしいなと思いました。
彼はまだ19歳ですが、周りの人ともちゃんとコミュニケーションを取れるし、仕事にも真剣に向き合っていました。自分が彼と同じ年のころは全然できていなかったなぁと(笑)。すごいなぁと思いました。
――役者のときと、グループでいるときとの違いは?
僕は、基本グループでいるときはかわいがられているだけなので(笑)。みんな僕のことを甘やかしてくれる。でも、大志くんは年下ですが、同じ目線で接してくれます。「おなかがすいたー」とか「ちーちゃんご飯食べに行こう!」とかやりたいことを直接言ってくれて「OK! いーよ、いーよ食べに行こう」って(笑)。彼は行動力があって、僕を外に引っ張り出してくれます。
――キャラクターの魅力は?
薫は千太郎に挑発されて熱くなってすぐムキになる。僕にはそういうところがないので、いいなーってあこがれがありました。僕はめんどくさがりなんです。自分から探しにいくというより、与えられることが多くて(笑)。自分が熱くなれるものがあまりなくてそれではいけないと思っているので、なにか見つけようと。でも、無理に探すのも違うと思うので、本当に自分がひかれるものに出会いたいです。薫がジャズにひかれたように、自分ががっと熱くなれるということはすてきなことだなとこの作品で思いました。
――息抜きは?
つまらない答えですが、寝ること(笑)。あとは朝早く起きた時は、家で動画を見ながらまねして電子ピアノを弾くこと。ジャズはまだ習ったものしか弾けません。撮影後、大志くんがスタジオでノリでドラムを叩きだして、僕もがんばって合わせようと思ったのですが、そんな短時間じゃ2人でセッションはできない。難しかった(笑)。ジャズは嫌いになりたくないので、自分が好きなときに弾きたいときに練習したらいいかなと思います。
――いずれはコンサートのステージでも演奏を?
僕に自信ができたら。今より下手になりたくないので、日常的に練習をしようと思います。先生に教えてもらったものを自分でアレンジできるようになったら、もっとジャズにはまるのでは。そのレベルになるには、もう一度先生に背中を叩かれながら練習しなければいけないかもしれない(笑)。
――物語の時代設定が昭和でしたが、新鮮でしたか?

10円玉で公衆電話をかける場面ですね。一応使ったことはありましたが、10円玉をあんなにたくさん積みながら電話をかけたことはやったことがありませんでした。10円玉がなくなると、電話が切れちゃうんですよね? あと、家の電話機で通話するということは、今はほとんどやらないですね。今は一人一台スマホを持っている時代ですし。彼女の家に電話したら、家族が出るとか、絶対かけられないなー(笑)。お父さんが出たらドキドキしますよねー。
――キラキラした青春のシーンにあこがれは?
学校の屋上のシーンですね。今の学生はあまり屋上に出ることはないんじゃないかな?友人と休み時間に屋上でしゃべるみたいなことをやってみたかったな。ドラマでも何回かそういうシーンを演じたことはありますが、毎回いいなってあこがれています。あと、海にも行きたいですね。
――学生時代にワクワクした思い出は?
中学1年生のときに東京に出てきました。やっとジャニーズ事務所に入ってステージで踊ったりする活動ができるようになったんですよ。それまでダンスが好きで、地元で踊っていましたが、ステージで踊れるチャンスがなく、それができるようになって「ああ、ジャニーズになったんだな」って実感がわきました。放課後に稽古場に行くことがワクワクしていましたね。東京に引っ越してきたばかりの時は、あまり周りとコミュニケーションが取れなくて、学校が楽しくなかったんです。その時、千太郎みたいな人がいたら、自分の殻を破ることができて、東京でも楽しい中学校生活が送れたかもしれないです。それ以上に僕はジャニーズの活動をやりたかったので、稽古の時間は楽しかったです。
――撮影前に三木監督から手紙をもらったそうですね
薫と千太郎の「月と太陽」のような関係とか、今回、ピアノ演奏という難しいチャレンジがあるので、俳優として、人として、男としてひと皮むけてほしいといわれました。フィギュアスケートの浅田真央さんのように、演技をし終わったあとに心からやりきったという人にしか見せられないような表情を演技の中で見せてくれたらうれしいなと。自分ではどう見えたかわかりませんが、Hey! Say! JUMPのメンバーで映画の試写を見たんですけれど、中島(裕翔)が文化祭のシーンを見て「本当に真剣にピアノと取り組まないと、あの表情は演技では出せないよなー」っていってくれたんです。監督が求めていたのはこれかなと。
――薫との共通点は?
薫はピアノで自分を表現することに自信があって、僕もダンスを20年近くやってきて、そこだけには自信があります。逆にそれ以外に夢中になれることは僕にはないですね。
――薫と千太郎は運命の出会いをしましたが、ご自身は?
嵐の大野(智)くんの存在を知ったことですかね。もっと遡ると「8時だJ(テレビ朝日系)」という番組で、ジャニーズジュニアのメンバーが体操選手の田中光さんにバック転の指導をしてもらうというコーナーがあって、うちの家族は田中さんが出るというので番組を見ていたのですが、そこで、嵐を知って、ダンスで魅了する大野君が、すてきだなと思ったのが、ジャニーズに入りたいと思ったきっかけです。その後、世界体操のプレゼンターの仕事をしたときに、田中さんにお会いすることができました。その時に、「この人のおかげで、今の僕がいるんだ」と思いました。
――映画の見所と映画を見にくるお客さんへのメッセージを
ドラムやピアノに真剣を練習してジャズに取り組んだ演奏シーンを見てほしいですし、男同士、不器用だけどぶつかり合って傷つけ合って成長していく姿は、年齢性別関係なく心を打たれると思うでの、自分の青春に重なる部分を探しながら、二人を見守っていただければなと思います。(メディア局・遠山留美)
あらすじ:小玉ユキのコミックが原作。ピアノが得意な転校生西見薫(知念侑李)と、ドラムが得意な不良・川渕千太郎(中川大志)が、ジャズを通じて友情を深めて行く。千太郎の幼なじみ・迎律子(小松菜奈)を交えた三角関係の恋のゆくえなど、彼らの10年間の青春を描いたストーリー。
公開情報:映画「坂道のアポロン」2018年3月10日(土)全国ロードショー
出演:知念侑李 中川大志 小松菜奈
真野恵里菜 / 山下容莉枝 松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.) 野間口徹
中村梅雀 ディーン・フジオカ
監督:三木孝浩
脚本:髙橋泉
原作:小玉ユキ「坂道のアポロン」(小学館「月刊flowers」FCα刊)
製作幹事:アスミック・エース、東宝 配給:東宝=アスミック・エース 制作プロダクション:アスミック・エース、C&Iエンタテインメント
(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館
オフィシャルサイト:http://www.apollon-movie.com/
公式Twitter
予告編:「坂道のアポロン」(YouTube)