映画「羊の木」に出演 市川実日子さん「実は死骸が苦手です……」

インタビュー

 漫画界を騒然とさせた「羊の木」(山上たつひこ原作、いがらしみきお作画)が実写で映画化されました。さびれた港町に移住してきた謎めいた6人の男女は、全員が元殺人犯。そこでショッキングな事件が起こります。元殺人犯の一人、栗本清美を演じた市川実日子さんに、撮影のエピソードや映画への思いを聞きました。

監督に清美は「人間ではないもの」と言われました

―――極秘の国家プロジェクトとして、受刑者を仮出所させ、過疎化が進む町で受け入れる。センセーショナルなテーマに挑んだ作品ですが、最初に台本を読まれた印象を教えてください。

 地方の過疎化は大きな問題で、台本の設定の国家プロジェクトは、実際にどこかの町で起こりそうな気がして、リアルに感じました。ワクワクして読み始めたら、つかみ所がないというか、不思議な感触で、不穏な空気が漂っていて、いろいろと想像の膨らむ本だったので、どんな作品になるのか全く想像がつきませんでした。監督はどんな演出をするんだろう――そう思って、現場に入るのが、ちょっとこわくて、楽しみでした。

新しい作品に取り組むと、ヒントを探しながら過ごしています

―――実際に現場に入って、監督からのアドバイスはありましたか。

 撮影に入る前に監督とお会いする機会があって、「清美と宮腰(松田龍平)は人間じゃない」って言われたんです。「え!……人間じゃない?」(笑)。監督の言葉を自分なりに考えて、“地面から少し足が浮いているような感覚”なのかな……と。水面を漂うような……。足元がおぼつかない感じというか。撮影前にそのイメージをつかみたくて、清美のヒントを探していました。

―――受け入れ先の市役所に勤める職員・月末(錦戸亮)に駅で初めて会ったとき、少しよろけていましたが、あれも演出ですか?

 あのシーンが撮影の初日でした。監督から、まっすぐ歩けない感じで、こういうふうに歩いて……と具体的な演出がありました。あとは、衣装ですね。刑務所から出てきてすぐだから、「取りあえず」という感じで着ている服。衣装合わせの時、監督から「これ着て原宿歩ける?」って聞かれて。スタッフの方が笑いながら「無理!」って言ったり、私は「はい、歩けます!」と答えたり。そんなやり取りをしていました(笑)。清美は人見知りで几帳面きちょうめん、浮世離れしていて服装には頓着しない――と思います。撮影を重ねるうちに、漠然としていた清美像が浮かび上がってきました。演じるというより、体感していくような。

ストレスの発散法は「音楽を聴くこと、歌うこと踊ること」

―――清美が無表情で亀の死骸を持ち上げるシーンがあって、ゾクゾクしました。

 わたし、実は苦手で、最初は触れなかったんです。あのシーンを撮る前からスタッフの方にお願いして、亀を出して置いてもらって、遠くからちょっとずつ近づいて。本番までになれるように……。頑張りました!(笑)

―――清美はとても“死”に近いところにいる感じでした。小さな生き物の死骸に出会うと、お墓を作ってあげるのですよね。

 清美は自分が「罪を犯した」という自覚をどういう風に持っているのか。外へ出す表現が少ない分、いろんな想像ができます。海辺で「羊の木」が描かれた缶のふたを拾って、何かを感じる。お墓をいっぱい作ったのは彼女なりの“祈り”だったのだと、私は思っています。

とても怖いけれど、そのあとに温かな光が残る

―――撮影中に印象に残ったことはありますか。

 日本海の風景です。富山での撮影で、やわらかくもあるけど、常にどこかぴんと張りつめた空気もあって。心にも体にも、心地よい緊張感がありました。

女優という、ものを創る仕事は楽しいです。でも、図書館の司書にあこがれて、学校の資料を取り寄せたことがあります

―――完成した映画をご覧になった感想とオススメのシーンを教えてください。

 私は基本的に怖がりなので……。映画が始まり、恐怖がヒタヒタと近づいて来て、ずっと緊張感が続くじゃないですか。もう、怖くて怖くて。後半にすごく怖いところがありますよね? 台本を読んでいるから予想はできたので、身構えていたんです。でも、予想を超えていた。思わず「うぎゃっ!」って、びっくりしてしまいました(笑)。でも怖いだけではなく、受刑者と受け入れた人たちの「信じる気持ち」や「疑う心」に揺れるシーンに心が動き、温かくなりました。すべてが終わったあと、夜が明けて町に朝日が差してくる。心がじんわりと温かくなって、少しだけ光が残るんです。そして、音楽とエンドロールの美しさ。この物語の行き着く先が、エンドロールに込められていると思います。

 (聞き手:読売新聞メディア局・後藤裕子、撮影:高梨義之)

市川実日子(いちかわ・みかこ)
女優

 1978年生まれ、東京都出身。10代からモデルとして活躍し、2000年『タイムレスメロディ』で長編映画デビュー。03年『blue』で第24回モスクワ国際映画祭最優秀女優賞を受賞。主な出演作に、07年『めがね』、10年『マザーウォーター』、12年『レンタネコ』、14年『ぼくたちの家族』、16年『シン・ゴジラ』、17年『三度目の殺人』など。

【映画情報】

(c)2018「羊の木」製作委員会 (c)山上たつひこ いがらしみきお/講談社

 『羊の木』
 さびれた港町・魚深うおぶかに移住してきた互いに見知らぬ6人の男女。市役所職員の月末つきすえは、彼らの受け入れを命じられた。一見普通にみえる彼らは、何かがおかしい。やがて月末は驚愕の事実を知る。新住民は全員、元殺人犯だった!

 受刑者を仮釈放させ、過疎化が進む町で受け入れるという、国家の極秘プロジェクトに関わった月末と何も知らない住民たち。元殺人犯という“究極の異物”を受け入れた町に起こる不協和音……。「信じるか? 疑うか?」。人間の本性をあぶり出す極限のヒューマン・サスペンス。

監督:吉田大八
出演:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平
脚本:香川まさひと
原作:「羊の木」山上たつひこ、いがらしみきお(講談社イブニングKC刊)
配給:アスミック・エース
(c)2018「羊の木」製作委員会 (c)山上たつひこ、いがらしみきお/講談社

『羊の木』公式サイト⇒

2018年2月3日(土)全国ロードショー