最旬女優ジェシカ・チャステイン、戦時下のヒロインをリアルに

インタビュー

 ジェシカ・チャステインは今、最も「いい仕事をしている」ハリウッド女優の一人でしょう。彼女が映画の中で演じる女性像は、強さと繊細さを併せ持ち、見る者の心をつかみます。そのジェシカが最新作「ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~」(ニキ・カーロ監督、12月15日公開)の公開に先立ち、来日しました。インタビューに答えてくれた彼女は、理知的でチャーミングな人でした。

「ユダヤ人を救った動物園」アントニーナの生き方「分かち合いたい」

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 「ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~」は、第2次大戦中、ドイツ軍占領下のワルシャワで、ユダヤ人を救い出した動物園の園長夫妻、ヤンとアントニーナの物語です。2人は、ゲットー(ユダヤ人隔離居住区)からユダヤ人を連れ出して動物園にかくまい、安全な場所に逃がす手助けをしました。300人もの人を助けたとされています。実話に基づく物語。ヒロインのアントニーナを演じたジェシカは、どんな思いで作品にのぞんだのでしょうか。

――アントニーナのことは、以前から知っていたのですか。

 実は知りませんでした。なぜそれまで知らなかったのかと、自分でも驚きです。歴史の中で忘れられている彼女の物語を掘り起こし、皆さんと分かち合いたいと思いました」

――彼女の生き方をどう思いましたか。

 「彼女は自分や家族を危険にさらしても、正しいと思ったことをした。現在、世界を見渡すと、彼女のような女性が必要なのではないでしょうか。『女神の見えざる手』のスローンや『ゼロ・ダーク・サーティ』のマヤとは違い、彼女はフェミニンな力で闘いました。日々動物と接しているのにスカートをはき、マニキュアや口紅、ドレスも好きだったそうです」

演技力に定評、出演の決め手は「現実感があるか」

 「女神の見えざる手」(ジョン・マッデン監督)のスローンは敏腕ロビイスト、「ゼロ・ダーク・サーティ」(キャスリン・ビグロー監督)のマヤは中央情報局(CIA)の情報分析官。ジェシカが演じる女性像はとても多様です。今回は善行を行う女性の役ですが、「ヘルプ ~心がつなぐストーリー~」(テイト・テイラー監督)ではイヤな女を演じてアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされるなど高い評価を集めました。

――出演作を選ぶ決め手は何ですか。

 「映画の中の女性というのは『本当にこんな人いるの?』という人も多いのですが、私は現実に即した女性像が良いと思っています。アントニーナは、最初は夫の指示を待っている存在だった。それが物語の最後には、2人は対等な立場になり、夫との関係性がより健全なもの、素晴らしいものになっていく。その過程が好きでした」

――アントニーナは実在の人物ですが、どのように役作りをしたのですか。

 「娘のテレサさんと、ワルシャワで会いました。話し方や動き方は、その姿を参考にした。彼女は母親のことを『猫』と表現した。そこで、動きも柔らかで、流麗な、しなやかな感じにしました」

――今回、動物と一緒に演技をしましたね。

 「生き物が大好きなんです。撮影前にはかなり時間をかけて、仲良くなりました。映画冒頭にある象の出産場面の撮影では、人形の子象を使ったので、最初親象は関心を持ってくれなかった。そこで私がアイデアを出し、好きなリンゴを人形の周辺にあちこちに隠しました。すると、リンゴを探して鼻を人形に巻き付けるような動作をしてくれたのです」

仕事に役立つ「女同士の友情」

 40歳のジェシカ。2011年の「ツリー・オブ・ライフ」(テレンス・マリック監督)以降、大作への出演が続き、確かな実績を積んでいます。「いい仕事」をしていくためにどんなことが大切だと考えているのでしょう。

――映画界での自身のキャリアを、今後どのように重ねていきたいと感じていますか。

 「私は注目を浴びたいと思ったことはないんです。今は、プロデュースに興味を持っています。私は脇役で、ほかの人がもっとスポットライトを浴びてくれたらいい。今後は役者業を少し減らして、プロデュースに割く時間を増やすかもしれないです」

――プロデューサーとしては、女性を描く作品に興味がありますか。

 「女性の視点は重視していますが、これまで物語をつづられてこなかった人たちがたくさんいる。そうした人たちの映画を作りたい。先住民の文化や物語にも興味があります」

――日本で働く20代、30代の女性にアドバイスを。

 「何でも話せる女性たちのグループを持つと良いというのが、私のアドバイスです。私も、自分という存在が認められず、ギャラでも不公平な扱いをうけていた時、一番相談できたのは女性の仲間でした。女同士の絆は重要です。お互いの経験を理解した上で意見交換ができるし、社会を変えていくことだってできるかもしれない」

――女性の絆というのは難しいとも聞きます。

 「そんなことありませんよ。『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』に出演した時、女性がたくさんでケンカが多かったのではとよく聞かれた。そんなことはなくて、お互いに大事に思っていて、今でも(出演者同士)仲が良いんですよ」

――ハリウッドではセクハラが問題になっています。

 「対策として、女性をリーダー的な立場に置くのが有効だと思います。この映画が良い例で、私のほか、監督や脚本家、原作者らが女性。現場では女性も男性もハッピーでした。男性と女性の比率を同じにすれば、みんながハッピーになるかもしれません」

 少し高めの声で、穏やかに答えてくれたジェシカ。取材した記者やカメラマンのために、「LOVE」と書かれた缶バッジをプレゼントとして用意してくれていました。「何個でもいいですよ」という言葉に甘え、赤と緑で文字が書かれた2種類をもらいました。

 取材を終え、帰社する際、エレベーターでまたまた一緒になりました。その時も、「私の母です」と隣にいる女性を紹介してくれました。ハリウッド女優とは思えない、とても気さくな方でした。(大木隆士)

ジェシカ・チャステイン
 1977年、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。ジュリアード音楽院の演劇部門を卒業後、舞台を中心に活動。映画「ツリー・オブ・ライフ」以降はスクリーンでの活躍が続き、「ヘルプ ~心がつなぐストーリー~」でアカデミー賞助演女優賞候補に。ウサマ・ビンラーディンを追うCIAの情報分析官を演じた「ゼロ・ダーク・サーティ」では同主演女優賞にノミネートされた。公開中の「女神の見えざる手」では、見る者に強烈な印象を与える敏腕ロビイストを演じている。