貫地谷しほりさん、湊かなえさん「日常の息苦しさは誰にでも」

貫地谷しほりさん(左)と湊かなえさん

 瀬戸内海に浮かぶ小さな島を舞台に、親子の葛藤と絆を描いた映画『望郷』が9月16日に公開されます。原作は、人気ミステリー作家・湊かなえさんの同名の連作短篇集。古いしきたりに縛られた家に育ち、ある事件を起こす主人公の夢都子むつこを、貫地谷しほりさんが演じています。4年ぶりの映画主演となる貫地谷さんと湊さんに、作品に込めた思いなどを聞きました。

よく知る場所が映像化されてうれしい(湊さん

 ――原作の「望郷」(文春文庫)は、6編の短編小説で構成されていて、映画はそのうちの「夢の国」「光の航路」の2編をもとにしています。「告白」「リバース」など数々のベストセラー小説を生み出し、映像化された作品も多い湊さんですが、『望郷』にはどんな思い入れがありますか?

湊さん 自分が生まれ育った島(広島・因島)や、今住んでいる島(兵庫・淡路島)をしっかりと思い浮かべながら書き、「自分の作家人生の節目になれば」と思った作品です。私はそれまで、読者に物語の舞台は身近な場所だと想像しながら読んでほしいと思って、地域をあまり限定せずに書いてきました。ところがある時、「自分にしか書けない作品を書いてみたい」と思ったことがあり、他の作家の方々よりも一番よく知っていることは何かと考えてみたら、それは「島で暮らす人」だったんです。今回の映画も因島で撮影していただいたので、よく知っている場所が映像化されるのがすごくうれしかったし、少しくすぐったいような気分にもなりました。

 ――原作を読み終えた時、どんな印象でしたか?

貫地谷さん 私は東京で生まれ育ったのですが、日々の生活の中で閉塞感を覚えたり、自分で自分を縛り付けてしまったりすることって、東京でも地方の小さな島でも同じなのではないかと思いました。そういう意味では、島を舞台にした作品ではあるけれど、本当に身近なお話だなと。

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 ――原作者として、製作サイドにリクエストしたことは?

湊さん 私はいつも「映画が出来上がるのを一番楽しみにしている観客」で、映画の中に原作にはないエピソードが入ることをむしろ楽しみにしています。ただ、「この人物はこういう言い方はしないな」とか「こういう行動は取らないな」といったことがあれば、それはきちんとお伝えしました。今回、映画化された「夢の国」「光の航路」という二つの短編は、まったく別の物語なのですが、映画の台本を読ませていただいたら、「この二つのお話がこんなふうにリンクするのか」と感心して、ますます映画の完成が楽しみになりました。

今までと違う自分が見られそう(貫地谷さん)

 ――映画では夢都子とその同級生で島外に出た航(大東駿介)の物語が登場します。旧家に生まれた夢都子は、本土にある遊園地「ドリームランド」に行く夢すら叶わず、島で窮屈な暮らしを強いられます。

貫地谷さん 私はこれまでどちらかというと、「ドジで元気で」みたいな役どころが多かったので、今回の役は、私にとっては新しい挑戦でした。もしこの役を演じられたら、今までとはちょっと違う自分が見えるんじゃないかという期待もありました。何より、私は湊さんの作品の大ファンなんです。以前にも湊さんが原作の映画(白ゆき姫殺人事件、2014年)に出演させていただいたことがありますが、再び出演できたことがすごくうれしいです。

 ――夢都子という役に挑戦してみて、いかがでしたか?

貫地谷さん 実は撮影が始まった頃、いろいろ思い悩むことがあって、自分自身を解放できないような息苦しさを感じていたんです。そういうところは夢都子とリンクしたかも知れません。ただ、撮影現場の雰囲気が本当に素晴らしくて、日がたつにつれ、だんだん自分が解放されていくような感覚になりました。解放し過ぎて、菊地(健雄)監督から「きょうは明るいから、もう少し抑えて」って言われるくらい(笑)。

 ――貫地谷さんの演技はいかがでしたか?

湊さん 小説を書いている最中、私には夢都子の表情が見えていたはずなんです。それなのに、映画を見せてもらったら、「島にずっと閉じこめられた生活を送っていると、こんな表情になるのか」とか「いろんなものをあきらめ、折り合いをつけて生きていると、こんな立ち姿になるのか」と、貫地谷さんに一つ一つ教えていただいたような気がしました。

登場人物の誰かに必ず重なる(湊さん)

 ――夢都子だけでなく、その母親、祖母も、「家」に束縛され、自由の少ない人生を歩んできた女性として描かれています。彼女たちの生き方をどう思いますか?

貫地谷さん 私には「なんで彼女たちはこんなふうになってしまったんだろう」とは思えません。もちろん私自身は、ここまで厳しい生き方は経験していないけれど、思い出したのが、小学生の時のことです。いつもの下校ルートとは違う道を歩いて帰ったことがあって、私を迎えにいった母と、行き違いになってしまったんです。母は家に戻ってくるなり、すごい勢いで私をたたいて、「なんでいつもと同じ道を通らないの!」って怒ったんです。私がワンワン泣き出したら、曽祖母が「ママはあなたのことが大事だからぶったのよ」って慰めてくれて。私にはそうやってフォローしてくれる祖母や曽祖母がいたから、「家に縛られていた」とは思わないけれど、夢都子の家がなんだか身近に思えるんです。

  それから学生時代、友達の家に泊まりにいきたいんだけれど、親にダメと言われる気がして、言えなかったこともありました。今思えば、普通に「泊まりにいきたい」と言えば、親は許してくれたと思う。でも、自分でダメだと思い込んで、自分を縛っていたんだなと。もしかしたら、夢都子も、彼女のお母さん、おばあさんも、そんなふうに思い込んで自分を縛っていたのではないでしょうか。

湊さん 日常生活の息苦しさや不自由さは、きっと誰もが抱えているものだと思う。映画を見れば、登場人物の誰かに重なる部分が必ずあると思います。

 ――湊さんは小説を執筆する際、映像化を念頭に置いているのですか?

 湊さん いいえ。それを考えてしまうと、(映像化の)予算の心配をして、「物語の舞台は外国にしない方がいいかな」なんて考えてしまうんです(笑)。小説だからこそ書けることが書けなくなるので、むしろ「これは映像化できないんじゃないか」ということを意識的に書くようにしています。

湊 かなえ(みなと・かなえ)

広島県生まれ。2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。08年、同作を収録したデビュー作「告白」が刊行され、同年の「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第1位に選出、09年第6回本屋大賞を受賞。12年、「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞(短編文門)を受賞。16年「ユートピア」で第29回山本周五郎賞を受賞。

貫地谷 しほり(かんじや・しほり)

1985年生まれ、東京都出身。02年、映画デビュー。04年の映画『スウィングガールズ』で注目を集め、07年のNHK連続テレビ小説「ちりとてちん」で初主演。08年にエランドール新人賞を受賞。13年の主演映画『くちづけ』でブルーリボン賞主演女優賞を受賞するなど、高い演技力に定評があり、テレビドラマ、映画、舞台、ナレーションなど、活躍の場を広げている。現在、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」に出演中。

『望郷』は9月16日(土)より新宿武蔵野館ほか全国拡大上映。
監督:菊地健雄 出演:貫地谷しほり、大東駿介、木村多江、緒形直人ほか
主題歌:moumoon「光の影」(avex trax)
制作・配給:エイベックス・デジタル