大河小説『政略結婚』は、女性を解き放つ物語…作家・高殿円さん

 歴史を舞台にした大河ファンタジー小説や女性国税徴収官が主役の「トッカン」が人気の作家・高殿円さん。最新作「政略結婚」は、江戸末期から昭和まで激動の時代を生き抜いた3人の女性が主役の大河ロマンです。結婚をキーワードに女性の生き方を問いかけたという高殿さんに最新作への思いを聞きました。

昔もいまも、結婚は「呪い」のように女性を縛る

――――歴史小説の題材は数多ありますが、「結婚と女性」をテーマに選んだのはなぜですか。

 今回は幕末から120年にわたる大河ドラマで、3人の女性をつなぐキーワードが“結婚”です。このころの結婚って、「婚家に尽くして家名を守る」ことを意味します。これは、女性にかけられた「呪い」だと思ったんです。そして、時代は変わっても女性たちは結婚という「呪い」に縛られています。30歳を過ぎたら結婚を期待され、結婚したら子どもを催促され、子育てが終わったら再就職しろという……。婚活、妊活、就活とどこまでも頑張らなきゃいけない。それって、しんどくないですか? どこかで「呪い」の連鎖を断ち切りたい。この物語を書きながら、そういう気持ちが強くなっていきました。

――――3部構成で、章ごとに一人のヒロインが描かれています。第一章のヒロイン、勇(いさ)は加賀藩主の三女ですね。

 本作の中で勇姫は唯一、実在の人物。夫が27歳で死ぬのも、子どもに先立たれるのも史実です。自分ではどうしようもない運命に流されながら、自分のやるべきことはしっかりやる。受動的ではありますが、芯は通っているんです。勇を通して言いたかったのは、「運命を受け入れる人生もあっていい」ということです。思い通りにいかなくても、その人生は失敗というわけではないんです。

――――勇は世継ぎができずに苦しみ、夫の早世でお家断絶の危機を迎える。「これでもか!」というくらい不幸が降りかかりますが、不思議とネガティブなイメージを受けないのは、暗さがないんですね。

 勇はおっとりして、ふわっとした女性に描きました。あざとくならないように、それでいて魅力的になるように。勇と対照的に描いたのが、お小姓女中の蕗野(ふきの)です。今でいうキャリアウーマンですが、実在の女性をモデルにしました。女性の人生は結婚がすべて……という時代に、縁談に見向きもせず、スキルアップを目指します。蕗野は結婚しませんが、出世して、養子をもらって家名を残します。江戸時代の女性でも、そういう生き方ができたんです。

艶やかに輝く九谷の皿は、「呪い」に打ち勝った女性の象徴

――――第二章で描かれる万里子は、加賀藩の分家の生まれで、パリで育ったモダンガール。第三章は貴族院議員・深草也親を祖父に持つ花音子。二人とも勇の子孫ではありません。直系の三世代ではなく、ヒロインたちは不思議な“縁”でつながっていて、その一つが加賀の名物・九谷焼の大皿です。女性たちの人生を九谷焼というアイテムでつないだのは、どんな意図があるのでしょう。

 昭和になり、華族制度がなくなったとき、花音子の祖父は家に火を付けて自殺します。祖父が家族を顧みず、家と心中するのは、何千年も続いた家長制度の集約でもあります。何もなくなった焼け跡から、九谷焼きの大皿が無傷で見つかります。陶器はもろいものですから、落とせばあっけなく割れてしまいます。でも、高温で焼かれて生まれた焼き物には、炎に負けない強さがあります。3人の女性をつないだ大皿は、彼女たちの象徴なんです。身勝手な男たちに翻弄されても、女性たちは炎に耐えて生き抜きます。艶やかに輝く九谷の皿に、「呪い」に打ち勝った女性への思いを込めました。

――――そうはいっても、彼女たちは男性運がいいような気がします。パートナーはみんな、いわゆる理想の男性ではありませんが、魅力的で好ましいです。

 じつはそれも、理想の王子様と結婚――という「呪い」からの解放なんです。勇の夫は早死にしちゃうし、万里子のパートナーは落第生で、王子様とはほど遠い人です。花音子と腐れ縁の男性・東雲は、ほかの女性と4回も結婚して離婚します。そんな理想から逸脱した男性を魅力的に描こうと思ったんです。「王子様を待つだけではダメ。ほんの少し見方を変えるだけで、意外とすてきな男性がいるんですよ」というメッセージを込めました。

――――「誰かがいてくれれば、それが夫や恋人でなくても十分」という一文にもドキリとしました。

 120年も書いて、たどり着いたのがそこなんです(笑)。結婚観なんて時代によってコロコロ変わっちゃう。「120年でこんなに結婚観が変わるんだから、私も大丈夫」と思ってほしい。「婚活」とか「保活」とか、「活」を付けたら頑張らないといけない気になるでしょう? それこそ、「呪い」です。いいんですよ、頑張らなくて。好きな人がいたら結婚して、子どもがほしければ産めばいい。どちらも必要ないという人生があってもいい。この小説はあなたの「物語」でもあります。120年の物語の後、あなたの物語が続きます。あなたは、どう生きますか? どんな生き方であれ、それでいいんですよ――と、女性たちに伝えたいんです。

高殿円(たかどの・まどか)
作家

 1976年兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。著作に、「トッカン」シリーズ、「上流階級 富久丸百貨店外商部」シリーズ、『メサイア 警備局特別公安五係』、『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』、「カーリー」シリーズ、『剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎』、『主君 井伊の赤鬼・直政伝』など、話題作を続々と発表している。13年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。漫画原作も多数。

『政略結婚』

 加賀藩主前田斉広の三女・勇は、加賀大聖寺藩主前田利之の次男・利極と結婚。やがて家を支える存在になる勇だが――。(「第一章 てんさいの君」)
 加賀藩の分家・小松藩の子孫である万里子。日本で初めてサンフランシスコ万博の華族出身コンパニオン・ガールになった女性は、文明開化後をどう生きるのか――。(「第二章 プリンセス・クタニ」)
 瀟洒豪壮な洋館に生まれ育った花音子の生活は、昭和恐慌によって激変。新宿のレビュー劇場に立つことになった花音子は一躍スターダムにのし上がるが――。(「第三章 華族女優」)

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