宮部みゆき、辻村深月らがつなぐミステリー短編集『宮辻薬東宮』

 今をときめく人気作家5人がリレー形式で物語をつなぐ、ミステリーアンソロジー『宮辻薬東宮みやつじやくとうぐう』が6月20日、刊行される。刊行に先駆け、8日に東京都内で記者会見が開かれた。各作家の本に寄せるコメントや作品について紹介する。

  書名は5人の頭文字。宮部みゆきが書き下ろした短編小説を辻村深月が読み、短編をしたため、それを読んだ薬丸岳が次の短編を書きおろす――。東山彰良、宮内悠介へと次々とバトンが受け継がれ、2年の歳月をかけて風変わりで魅力的な1冊の本に仕上がった。

講談社/1500円(税別)

  編集者からの「書きおろしで作りましょう」という提案に、アンソロジー好きの宮部は、一も二もなく承諾したそうだ。一番手は好きなテーマで書けるので気楽だったという。宮部が選んだのは、いま最も力を入れているホラー。平凡な家族が不可解な体験で徐々にむしばまれ、静かな恐怖が戦慄のラストへと転がっていく。宮部の振ったサイコロは、このアンソロジーをホラーテイストのミステリーへと導いた。

  二番手の辻村は宮部の大ファン。依頼されたとき、条件反射で「やります!」と答えたという。「同世代の作家で、宮部さんからバトンを受けることに、ときめかない人がいるでしょうか。信じられないくらい光栄です」。宮部作品から印象的な写真のモチーフを引き継ぎ、きっちりと彼女の世界に落とし込んだ。

  薬丸は、宮部と辻村の作品を読んで戸惑ったという。「むちゃくちゃおもしろい。でも、ホラーは書いたことがない」。編集者からの依頼を引き受けたあとで、リレー方式だと知ったが、いまさら逃げられないという。必死の思いで書きつないだという作品は、これまた“むちゃくちゃおもしろい”ホラーになった。

  「皆さんの作品を読んで脳みそがスパークしました。お祭り気分で楽しく執筆できた」というのは、四番手の東山だ。豪華メンバーの作品を発表前に読めることに、すごく興奮したという。小説の舞台は自身の故郷である台湾を選び、怪異文学の古典「聊斎志異りょうさいしい」をベースにした。ベースは古典だが、モチーフは現代の必需品スマートフォン。読後、熱を帯びたスマホを手にしたとき、思い出してゾクゾクする。そんなリアルな怪異小説だ。

  リレーのラストを飾った宮内の作品は、ゲームのプログラムに巣くう“幽霊バグ”がモチーフだ。宮内は、自分がアンソロジーのアンカーと知って、青ざめたそうだ。東山のスマホから自身が得意なITにつないで、“IT零細企業系ホラーテイスト”な短編に仕上げたという。まったく関連なさそうな展開が終盤、見事に振り出しの宮部作品に連携する。

  1作だけ抜き出して読んでも十分楽しめるが、前に書いた作家と次の作家の“つながり”を感じながら読むと、さらに読書の喜びは広がる。ちなみに、順序を変えて読んでも、作家の連携は不思議と失われない。ちょっぴりこわいけどくせになる、読めば誰かにバトンを渡したくなる、連鎖を起こすアンソロジーだ。(敬称略、取材・後藤裕子)