「メッセージ」宇宙船に向き合うヒロイン 心に響くSF映画

シネマレビュー

 ある日突然、巨大な宇宙船が世界各地にやってきて、上空に停泊する。攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、ふわりと静かに浮かんでいるだけ。
 宇宙船でやってきた地球外生命体の目的は何か。解明する役割を担った言語学者の女性、ルイーズ(エイミー・アダムス=写真)を主人公に据えた、美しく、知的で、心に響くSF映画。原作は、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」、監督は、カナダ出身の才人、ドゥニ・ヴィルヌーヴである。
 冒頭、ルイーズと娘ハンナの歩みが駆け足で映される。数々の幸福な瞬間、悲痛な記憶。ハンナは若くして死ぬ。
 ルイーズの任務が描かれるのはそれからだ。米政府に雇われて前線基地へ。理論物理学者のイアン(ジェレミー・レナー)らと共に宇宙船の内部を訪れては、大きな窓越しに、巨大な体の異星人「ヘプタポッド(七本脚)」とのセッションを繰り返す。
 話し言葉は解明不能。でも、書き言葉ならば。理解が進むにつれ、ルイーズは不思議な感覚を覚え始める。時制の概念がない彼らの言語でものを考えるうちに、彼女の世界観は変わってきて、過去・現在・未来の見え方が全く違ったものになっていくのだ。ふいに、ハンナとのさまざまな瞬間が浮かんできたりもする。
 未知の脅威に武力で立ち向かい、戦いの快楽を味わわせる。そんなSF映画はごまんとあるが、これは違う。
 不思議な形状の宇宙船や、軟体動物を想起させるヘプタポッドは謎めいていて不気味だが、どこか魅惑的。不確かな気配に満ちた映像、荘厳な効果音と相まって畏怖を感じさせる。現実同様、そこかしこに好戦的な人間がいて、だから事態が緊迫するのだが、観客が心を寄せたくなるのは、学者として人類として、知力と勇気を総動員して未知なる深遠な存在を理解しようとするヒロインのはずだ。
 結果的にルイーズは世界のためになることをする。ただ、本作の眼目はそこではないように思う。これはあくまでも、ひとりの女性をめぐる物語。深遠に触れた後、ルイーズが選ぶ「人生」が何といとおしく、大切に映ることか。
 「灼熱の魂」「ボーダーライン」で女性の魂を鮮烈に描いたヴィルヌーヴならでは、と思わせるSF映画。強くて、繊細。作品を体現するアダムスの演技も素晴らしい。1時間56分。TOHOシネマズ六本木ヒルズなど。(恩田泰子)