餌やおもちゃを庭先に置いて、猫を集めて楽しむ人気ゲームアプリ「ねこあつめ」。その世界を実写化した映画「ねこあつめの家」(蔵方政俊監督)が4月8日から公開されます。主人公でスランプ中の小説家を演じた伊藤淳史さんに話を聞きました。
大きな事件は何も起こらないけれど…

「電車男」や「ビリギャル」などで、幅広い役柄を演じてきた伊藤さん。本作で演じる佐久本勝は、若くして新人賞を受賞するも、その後は筆が進まず、日がなインターネットで自分の名前を検索する“エゴサーチ”をしては、世間の悪評にもんもんと落ち込む小説家です。怪しい「占い師」の老婆の言葉をきっかけに、片田舎の古民家に移住し、そこでたくさんの猫と出会います。
――――猫との共演で、苦労したことはありますか?
伊藤淳史さん:とても優秀な猫ちゃんたちばかりでした。当然、台本と違った予想外の動きをすることはあるのですが、それが結果的に監督さんの求めているものよりいいものが撮れたり、思いがけず近寄って来てくれたり。かわいいシーンを撮れることのほうが多くて、苦労という感じはしませんでした。
――――猫に驚かされたシーンはありますか?
伊藤さん:(ちゃはちさん役の)シナモンとの共演シーンが多かったのですが、台本で縁側からトコトコと部屋に入ってきて、パソコンのキーボードの上に飛び乗って、せっかく書いた文字を消してしまうというシーンがありました。シナモンはなんと一発OKで、名演ぶりに感動しました。
――――初の小説家役はいかがでしたか?
伊藤さん:実際は全く違うんですが、小説家が作品を作り出すところは、ちょっと役者と似ているところもあり、わりと役に入りやすかったです。
――――仕事に行き詰まったら、何をして気分転換をしますか?
伊藤さん:おいしいお酒を飲んだり、2日ぐらい休みができたらちょっと温泉に行ったり、極力、仕事と関係ないことをして、気分転換をします。佐久本も東京の冷淡な人間関係から現実逃避して、田舎で一人になる。心理的には近い部分がありますね。
――――衣装の水玉模様が印象的でした。キャラクター作りはどうやって?
伊藤さん:衣装や持ち物などすべて監督のこだわりです。衣装さんたちと何度もカメラテストをして、チカチカしない水玉柄を選びました(笑)。
――――役者人生で大きな壁やスランプを感じたことは?
伊藤さん:どの作品も常にハードルとしては高いのですが、毎回求められるもの以上の結果を出したいと思っています。いつも作品に入る前は、大きな壁を感じています。役を与えられたからには、今まで演じたもののさらに上を越えていかなければと思います。
――――演じる上で気をつけていることはありますか?
伊藤さん:いつも心がけているのは、自分の想像と全く違っていたり、自分の演技プランと監督の考えが真逆だったりしたとしても、投げやりということではなく、すべて監督にゆだねて、基本的には監督の思っている通りに全部やることにしています。少しでもわからないところがあれば、理解するまでちゃんと話し合います。そこで監督のOKが出たのなら、僕が監督のプラン通りにできたということだと思っています。でも、完成した作品を見ると反省点はいっぱいあります(笑)。
猫っていいな~
――――今回共演した2人の女優さんは、わりと気が強めな女性の役でしたね。
伊藤さん:そうですね。編集者役の忽那汐里さんは何度か共演させていただいたことがあるので、今回の現場も楽しく過ごせました。彼女は「人見知りなんです~。私」って、全然、人見知り感なく明るく言うんです(笑)。古民家での撮影は、控室がなかったので、待ち時間もあの家の中でずっとすごしていたんですよ。メインのリビングと、4畳ぐらいの別の部屋で楽しく話をしながら待っていました。
――――木村(多江)さんは?
伊藤さん:多江さんとは去年、NHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」でご一緒させていただき、ドラマの撮影が終わってすぐに映画の撮影が始まったんです。僕はドラマの母親役の多江さんの娘と結婚する役だったので、その雰囲気のまま、気楽に接することができました。映画で多江さんは、ペットショップの店主の役でした。本当は、ペットショップでの多江さんとの共演シーンは2日間の予定でしたが、楽しくノリノリでいいテンポで撮影が進んだので1日で終わってしまいました。
――――猫を飼ったことはありますか?
伊藤さん:僕は犬を飼っていて、今まで猫を飼ったことはないんですよ。犬はすごく寄ってくるし、すぐお座りするし、顔を舐めてくるし。猫は人間と少し距離を保つものだと思っていましたが、猫とずっと一緒にすごしていると向こうから近寄ってきたりして。「あれ? 猫ってこんなんだった?」って驚きがありました。
カメラが回っていない時も、結構すりすりしにきてくれるんですよ。「なんか猫もいいなー」って思いました(笑)。こんなに待ち時間がうれしいことってなかったですね。猫と遊ぶのも、猫同士がじゃれあうのを見ているのもかわいかったです。生活の一部が切り取られている映画なのかなって思ういい時間でした。
近所に3、4匹猫がいて、今まではガツガツ近づいていたんですけど、逃げられちゃって。撮影の現場でも、こっちからガツガツ行かずに待っていると、向こうから来てくれたりするようになりました。だんだん猫の本当のところがわかってきたような気がします。
“エゴサーチ”はする?
――――役では自分の名前や評価をインターネットで検索する”エゴサーチ”をしていました。
伊藤さん:自分の作品をほめられたりしたら、うれしいし、普通に評判は気にしますね。インターネットニュースが好きなので、待ち時間はしょっちゅうエンタメやスポーツのニュースをチェックしています。自分への批判を本当に気にするのであれば見ませんが、たとえ「つまらなかった」とけなされたとしても、「あ、この人は見てくれたんだな」と思います。100人いたら100人全員が共感してくれて「最高だ!」ということはほぼないと思います。また、自分への評価以外でもネットでプラスになる情報を見つけたら積極的に取り入れるのもいいかなと思います。ネットの情報をプラスもマイナスも自分は使い分けることができていると思います。“エゴサーチ”はしないです(笑)。
“ネコサーチ”は?
――――主人公がペットショップでアルバイトをするシーンがありました。事前に猫について勉強しましたか?
伊藤さん:猫のことはあまり知りませんでした。ペットショップで改めて見てみると、猫と犬ではペットフードやおもちゃも全然違うんですね。佐久本は元々猫好きだったと小説の中で言っているんですけど、それほど猫について知識があったわけではないので、そんなに必要もないかなと。でも、猫との距離感ってこのくらいかな?と思っていたら向こうから近づいてきてくれて、佐久本も自分もリアルに「えっ!? ウッソー!?」とびっくりしたりしました(笑)。
――――最後に映画の見どころを教えてください。
伊藤さん:猫がかわいくて癒やされます。それ以外にもちゃんとした人間ドラマが描かれています。日々を生きてきて、悩みが全くないという人はいないと思うし、一人で生きていくのは難しい。でも、なにかきっかけや縁、タイミングを見逃さなければ、なかなか先が見えない真っ暗なトンネルの中にも一筋の光が必ず見えると思います。自分でトンネルを掘っても、なかなか見つからないと思います。佐久本にとってはそれが猫でしたが、それが見ている人には物かもしれないし、人かもしれないけれど、何かを感じてもらえるといいなと思います。
(聞き手:メディア局遠山留美、撮影:本間光太郎)
