「ムーンライト」 少年の成長 甘美に残酷に

シネマレビュー

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アカデミー受賞作 闇に溶けかかった人生を照らす光の意味

 第89回アカデミー賞の作品賞、脚色賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)に輝いた珠玉の一本である。

 マイアミのリバティ・シティ。監督・脚本のバリー・ジェンキンス、原案である戯曲「イン・ムーンライト・ブラック・ボーイズ・ルック・ブルー」の作者タレル・アルバン・マクレイニーが育ったその地域を舞台に描かれるのは、貧しい黒人少年シャロンの物語。思春期を経て大人と呼ばれる年頃に至るまでのドラマを三つのパートに分けて時系列で見せていく。

 貧困、母親(ナオミ・ハリス)の薬物中毒、学校でのいじめ、ゲイである彼への敵意、孤独。さまざまな問題が浮かび上がるが、映画の主役は過酷な現実ではなく、あくまでもシャロン。 獰猛どうもう な世界で何を夢見るのか。どんな大人になっていくのか。彼の柔らかな心に刻みつけられる重要な瞬間が、美しく静穏な映像をもって、時に甘美に、時に残酷に映し出されていく。

 観客が最初に出会うのは、10歳のころのやせっぽちのシャロン(アレックス・ヒバート)。ある日、いじめから逃れて空き家の中にいたシャロンは、地域の麻薬売買を仕切る男、フアン(アリ)に出会う。フアンが文字通りシャロンの周囲の壁を壊して、外の世界へと連れ出した時から物語は動き出す。

 シャロンがフアンから泳ぎを学ぶシーン=写真=がある。フアンは洗礼のような荘厳さをもってシャロンを波立つ海へと導く。それはまるで人生のレッスン。大切な誰か、そして自分を信じれば泳げるようになることを少年は身をもって理解していく。

 思春期のシャロン(アシュトン・サンダース)にとって大きな存在となるのは同級生のケヴィン。唯一心許せる友である彼への思慕をシャロンは募らせる。

 ただ、世界は獰猛。30代になったシャロン(トレヴァンテ・ローズ)はマッチョな男を装って暴力に満ちた世界を渡るようになる。

 が、転機は来る。道を滑らかに行く車、バックで流れる甘く切ない「ククルクク・パロマ」。大事な人のもとへ向かうシャロンのときめきが映像を通して、見ているこちらの胸にもしみてくる。ああ、これは愛の物語だったのか。闇にとけかかっていた人生を青く輝かせるムーンライト。そして観客は、世界に調和をもたらすその光の正体を知る。1時間51分。日比谷・TOHOシネマズシャンテなど。(恩田泰子)