白菜の漬物が美味しく漬かる冬、鍋で楽しむ

酒井順子・ずっと中華が好きだった

鍋の季節、到来。家で鍋物をする日に、箸休めとして私がよく作るのが、「辣白菜ラーパイツァイ」です。これは文字の通り、唐辛子がぴりっと効いた、白菜の甘酢漬け。料理教室の先生のレシピで私は作っているのですが、使用するのは白菜の白い芯の部分のみとなっています。

鍋料理の時、煮えすぎた白菜の芯の部分が、最後に何となく鍋の中に残りがち、という傾向が我が家にはありました。が、最初から芯の部分は辣白菜にして、主に葉の部分を鍋に使用すれば、両方とも積極的に食することができる。‥‥ということで、「鍋の日は、辣白菜を作る」との法則が確立されたのです。

白菜の芯は、細めのうどんくらいの拍子切りに。塩で揉んで水気を絞ってから、唐辛子と甘酢、ごま油で漬ければ出来上がりということで、辣白菜は実に簡単な料理です。一度水分を抜いた白菜の芯は心地よい歯触りになっており、その味わいも、鍋物の合いの手として適しているのでした。

東アジアの人々に馴染なじみの深い白菜は、冬に美味しい野菜です。台湾の故宮博物院の名物といえば、翡翠ひすいでできた白菜の彫刻。おそらくは白と緑のグラデーションが美しい翡翠が発見された時、「これは‥‥、白菜だ!」とピンときた彫刻家がいたのでありましょうが、白菜は彫刻にしたくなるほどに愛されている野菜、とも言えるのではないか。

年明け頃の定番行事

日本人にとって白菜と言えば、まず思い浮かぶのは鍋物やお漬物ですが、他の国では両者が合体しがちのようで、韓国料理であれば、キムチを鍋物というか汁物に入れたキムチチゲが思い浮かびます。そして中国でも、白菜の漬物を使用した「酸菜スヮンツァイ火鍋」という料理が、東北地方において食べられているようです。

日本においても、酸菜火鍋を供するお店があって、中でも有名なのが六本木等に店舗があるS飯店(小籠包ショウロンボウの時にご紹介した、浜松町のS飯店とはまた別のお店)です。かつて三田にあった時代から、酸菜火鍋を名物としていました。

発酵によってすっぱくなった白菜の漬物をどっさりと入れる、このお鍋。白菜の漬物が美味しく漬かる冬の時期だけの限定料理であり、私も毎冬1回、食べることを楽しみにしています。

すっぱい漬物の鍋ということで、我々は仲間うちで、この鍋のことを「すっぱ鍋」と呼んでいるのでした。

「そろそろ、すっぱ鍋行く?」

「いいね、行こう!」

という感じで、年明け頃の定番行事と化しているのです。

すっぱ鍋の季節のS飯店には、この鍋を食べる人しかいません。中央部に炭火を入れることができる銅鍋が全てのテーブルに置かれている様は、壮観です。

具のメインは白菜の漬物であり、細切りにされた漬物が、お皿に山盛りに。漬物の引き立て役としては、豚バラ肉もたっぷり。バラ肉のとろりとした脂分を、漬物の酸味でひきしめつつ食す、というのがこの鍋の醍醐味であり、さらには牡蠣やら蟹やらといった食材も動員されている。

鍋に添えられている薬味は、ねぎ、中国醤油、そして腐乳フールウですが、中でも欠かせないのは腐乳です。腐乳は、豆腐を麹漬けして発酵させた調味料であり、沖縄の豆腐ようのような感じ。漬物&バラ肉に腐乳をちょろっとつけて食せば、発酵と発酵の相乗効果で旨味が跳ね上がり、

「すみません、腐乳のお代わりをいただけますか?」

と、何度かお願いすることになるのでした。

さらさらな「シメ」

本場中国において、鍋の「シメ」という感覚があるかどうかは、寡聞にして知りません。が、S飯店はさすが日本人の心をよくわかってくれているのであり、すっぱ鍋をあらかた食べ終わった時に運ばれてくるのは、小盛りのごはん。千切りの搾菜ザーツァイをのせて、鍋のスープをかければ、お腹がいっぱいでもさらさらと入るスープかけご飯になります。

すっぱ鍋におけるこのシメが私はお気に入りなのですが、その理由は「卵でとじない」という部分にあります。日本の鍋における定番のシメというと、だし汁にごはんを入れて卵でとじる、おじや。少し蒸らしてから鍋の蓋をぱっと開ければ、

「わぁ!」

と歓声が上がることになっている。

しかしひねくれ者の私は、一応、皆と一緒に「わぁ!」と声を上げつつも、内心で「ああ、白いごはんにあのだし汁をかけるだけで、サラサラっと食べたい」と、いつも思っているのでした。せっかくの美味しいだし汁だというのに、卵を投入したら卵の味にだしの風味が消されるではないの、と。

さらに言うなら、煮込んだおじやというのは、ごはんの輪郭が少し煮溶けて、麺で言うなら伸びた状態になっています。ここでも私は、「ああ、せっかくのごはんが」と、残念な気持ちになっているのでした。

そのような個人的嗜好があるため、私にはすっぱ鍋のシメ方が性に合っているのです。単なるスープかけごはんなので、ごはんの輪郭はキリッとそのまま、スープの味もクリアに堪能することができる。

すっぱ鍋で大量の白菜を食べると、いつも「今が一番寒い時期なのだなぁ」という実感を深めつつも、「しかし、春はそう遠くない」とも思う私。今は色々とつらい時期ではありますが、季節の野菜・白菜をたっぷり食べつつもう少しだけ我慢して、新しい季節の到来を待つことにいたしましょう。

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酒井順子
酒井 順子(さかい・じゅんこ)
エッセイスト

高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。「負け犬の遠吠え」で講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。11月に「ガラスの50代」(講談社)を出版。