日本酒と料理のペアリングで「体験」という価値を届けたい

ごほうびクリエーター×ぐるなび

料理と日本酒のペアリングを提案する日本酒バー「GEM by moto」(東京・恵比寿)

キラリと光るあの人から人生のヒントを。元気をくれる特別なごほうびフードを生み出すごほうびクリエーターの生き方に迫ります。

GEM by moto 千葉麻里絵さん

東京・恵比寿にある日本酒バー「GEM by moto(ジェムバイモト)」の店主・千葉麻里絵さんは、料理とのペアリングで日本酒のイメージを変えた一人です。“マリエージュ”と呼ばれる彼女のペアリングは、その日本酒を飲んでみて合うと直感した食材からスタートします。食材が料理人の腕で料理になり、日本酒がグラスに注がれたら準備完了。この二つを口に入れると、異なる輝きを持つ宝石が溶け合うように混じり、夢心地の幸せがやってきます。今では「日本酒のカリスマ」と言われる彼女ですが、キャリアのスタートはシステムエンジニア。彼女が通ってきた道と未来への挑戦を聞きました。

1対1の接客の魅力が忘れられず、日本酒の道へ

大学の工学部で学んだ千葉さんが卒業後に選んだ仕事は、保険会社のシステムエンジニアでした。プログラムを組んでシステムを作るやりがいのある仕事でしたが、どうしても忘れられなかったのが、大学時代の居酒屋での接客経験。

「その居酒屋にはメニューがなくて、魚が数種類入ったおけを持って、魚の説明や食べ方、日本酒の合わせ方を接客しながら提案するんです。アルバイトとはいえ、力量が試される仕事ですが、マニュアルじゃない1対1の接客が楽しくて。お客様からの『ありがとう』『おいしかったよ』は、疲れや嫌だったことが吹き飛ぶ魔法の言葉でした」

保険会社を退職した千葉さんが、コミュニケーションができる飲食店を求め、2010年に出会った職場が「日本酒スタンドもと」。当時は、日本酒というと、とっくりからついで、ぐいみであおるイメージが強かったのですが、この店はそうではありませんでした。若い世代や女性に向け、気軽にスタンディングで日本酒を提案するスタイルでした。

千葉さんは、日本酒を極めようと利き酒を重ねますが、はじめは味の違いがわかりません。そこで、独立行政法人「酒類総合研究所」でセミナーを受けて、「日本酒の味わいの構成は、香り8割・味2割」であることを知ります。「香りを意識して飲むと、それぞれ全く別の個性があることがわかって、世界が広がりました」

香りの要素を調べると、大学時代に学び、大好きだった有機化学が関わっていることを知ります。そして、蔵元へ出向き、香りが生まれる醸造過程を見て思ったことは、「点と点がつながった」。大学時代の研究とお店での経験が融合した瞬間でした。こうして、「酛」では日本酒をストーリーとともに語れる伝道師として活躍しました。

ペアリングとオートクチュール接客でつくる幸せの店

次に千葉さんが目指したのは、「日本酒の味わいの多様性を理解できる店」を作ることでした。2015年、料理と日本酒のペアリングを提案する「GEM by moto」を開店し、日本酒を「日本酒じゃなければ生きない料理」と合わせ、一本一本の魅力を伝えています。

さらに、もう一つのコンセプトが、コの字カウンターで繰り広げられる「オートクチュール接客」です。驚くことに、千葉さんは「お客さんが店に入ってきた時の感じで好みや気分がわかる」と言い、一人ひとりに違った料理と酒を提供しています。すると、隣同士で会話が生まれることもしばしば。GEM by motoの店内は、まるでにぎやかな舞台のようです。

店は「お客さんと料理と酒と中に入っている人が作るもの」として、お客さんの求めることをかなえる店作りが実践されています。

ここにしかない体験を味わってほしい

実際に、どんなペアリングが提供されているかを紹介しましょう。ラ・フランスの白えに素揚げした鉄観音の茶葉がのせられた一品には、「仙禽せんきん」という銘柄の酸味ある貴醸酒が合わせられています。

ラ・フランスの入った白和えは、まろやかさの中に果実のフレッシュな甘さがはじける料理。一緒にお酒を飲むと、透明感のある酸味でベールをかけられたようなマリアージュになり、別々に食べた時よりも一つ上の心地良さが味わえます。鉄観音の香ばしさも引き立って、千葉さんが「うすむらさきのよう」と表現するのもうなずける、やさしいハーモニーでした。

鉄観音をのせるアイデアは、千葉さんが香港を訪れた時にインスピレーションを受けたもの。ペアリングには、千葉さんのこれまでの経験や接客など、すべてが形となっています。

「これからの飲食店の価値は、体験。私たちは、おいしいものだけじゃなくて、その場でしか得られないリアルな体験を提供しているのです」

コロナで気づいた店と日本酒の価値

人気店となり、順調に歩んできたGEM by motoでしたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、この春、1か月間の休業を余儀なくされました。休業明けには、涙を流しながら飲んでくれていたお客さんがいたそうです。

「私たちも店を開けて、『こんなに楽しかったんだ』と改めて気づいて。毎日が貴重な体験だったんだと思いました」

休業を経て、日本酒の価値に気づいた千葉さんは、新しい取り組みもスタートしています。それは、「まりえ実験室」というオンラインサロン。酒蔵の情報やペアリングレシピを発信し、オリジナルの日本酒も販売しています。また、ソムリエや料理人、バーテンダーと勉強会を開き、新たな日本酒の可能性を模索中です。

この取り組みの目的は、「酒を一本だけ持って歩き、世界中にペアリングを広めていきたい」から。日本酒の保存状態が必ずしも良くない海外でも、納得させられるだけの力をつけたいのだそうです。世界中に日本酒の幸せが届くまで、千葉さんは走り続けます。(ライター/岡本のぞみ、撮影/小池彩子)

【お店とメニュー情報】

[メニュー]※すべて税込み
ラ・フランスの白和え 950円
仙禽 オーガニックナチュール2020<W kijoshu> 1050円

[店名]GEM by moto
[住所]東京都渋谷区恵比寿1-30-9
[営業時間]火〜金・祝前日17:00〜23:30、土・日・祝13:00〜21:00
[定休日]月曜日
[問い合わせ先]050-3462-5404
[ホームページ] https://r.gnavi.co.jp/4v5gt3y80000/

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