ハーブを育てたい。今年に入ってから、そんな気持ちがムクムクと大きくなったのは、年を取った証拠だろうか。花鳥風月のことを「年とともにめでるものが変わることの例えだ」という独自の解釈を聞いたことがある。花を見て、鳥を観察し、風を感じる。月を眺めて楽しめるようになったら、人生の大先輩だというわけだ。だとしたら、ハーブを育てたいと思い始めたのは、お年寄りの仲間入りするべく、その入り口に立ったと言えるかもしれない。
スイートバジルをパックで買ってくる生活からはそろそろ卒業だ。……と言いつつ、スーパーでバジルを買ってくる。相変わらず香りがいい。このハーブは、スーパーの冷蔵コーナーで販売されているが、冷やし過ぎると黒ずんで香りが落ちてしまうから、冷暗所で保存した方がいい。すぐに使うのはもっといい。
カレー粉を準備し、カレーを作ることにした。とはいえ、カレー粉よりもハーブが主役のカレーである。玉ねぎはいためなくていい。というか、使わない。
潮干狩りに行けないから、せめてアサリを使って、行ったつもりでアサリカレーを作ることにしよう。海水の塩分濃度と同じ3.4%程度にした塩水につけ、新聞紙などでふたをしてしばらく置く。砂抜きが終わったらざっと洗っておこう。
鍋に油とニンニク、カレー粉、アサリを入れてさっといためる。さらにトマトを加えてざっと混ぜ合わせ、ふたをする。グツグツすれば、数分でアサリの殻が開くのだ。
ハーブ、ハーブと頭の中がハーブでいっぱいになってくると不思議なものでそれに関連した出来事が起こる。ある日、僕の元に沖縄からカレーリーフの種が136粒も届いた。やんばる畑人プロジェクトという取り組みをしている友人農家からだった。「目指せ発芽率80%!」とコメントがある。カレーリーフは、サンショウの仲間でかんきつ系のいい香りがするハーブである。
僕は、100個の小鉢を準備し、種をまいた。毎朝、ベランダを眺めに行くのが楽しみになった。10日後くらいから次々と発芽し、1か月後には、126本の芽が出た。計算してみると、発芽率は、なんと92.6%である。今も毎朝、水をあげては、葉をなでてめでている。
カレーに使うバジルは、少量の水と一緒にミキサーでペーストにしておく。本当は石臼でゴリゴリとすりつぶしたい。これが一番香りが強まる。ともかくペーストにしたバジルはいい香り。「バジルとトマトとアサリ」はイタリア料理でも鉄板の組み合わせ。カレー粉がなかったら、まさかこれがカレーになるとは誰も思わないだろう。
このカレーは、とにかくあっという間に出来上がる。アサリに火が通れば、ふたを開けてココナツミルクとバジルペーストを混ぜるだけだ。
ハーブを育てたくなってから僕がまずやったことは、狭いラボのベランダに園芸用の棚を置いたことだった。顔の高さくらいまで3段に分かれた棚が設置され、プランターがいくつも置ける充実した環境が出来上がった。狭い東京でハーブを育てるなら、「地植えしたい」などと考えてはいけない。
ちょっと満足した僕は、「ここにどんなハーブをプランターで育てようか」と、近所の花屋さんをのぞいたりデパートの植木屋さんに足を運んだりして、イメージトレーニングをしている。あれもこれもと育てたいハーブが多すぎて決められず、いまだにハーブはひとつもラボにやってきていないのが現状だ。
カレーの味つけは、シンプルにいくなら塩だけでいいが、今回はしょうゆにした。発酵調味料のうま味が加わり、また砂糖を一緒に入れるとコクも生まれていい。ナンプラーにすればタイカレーっぽくなるし、いしるなどのぎょしょう系にしてもいい。
口当たりがさっぱりしているわりには食べ応えのあるカレーが出来上がった。このカレーを僕は、“ハーブカレー”と呼んでいる。この頃、スパイスカレーと呼ばれるものがはやっているようだ。はやっていると聞くと避けたくなるあまのじゃくな性格だから、これからは、ハーブカレーを精力的に作っていきたいと思う。自分で育てる喜びから作る喜びまでがつながるから、満足度は高い。
早く育てるハーブを決めなくちゃ。
アサリとトマトのハーブカレー
【材料・2~3人分】
オリーブ油 大さじ1
ニンニク(みじん切り) 1/2片
カレー粉 小さじ1
アサリ(砂抜き) 200g
トマト(くし形切り) 大1個(300g)
バジル 1パック(15g)
ココナツミルク 200ml
しょうゆ 大さじ1
砂糖 小さじ1
【作り方】
バジルと100mlの水(分量外)をミキサーでペーストにしておく。鍋に油を熱し、にんにくとカレー粉、アサリを加えてさっといため、トマトを加えてふたをし、強火にして2~3分、蒸す。アサリの殻が開いたら、ふたを開けてバジルペーストとココナツミルクを加えて混ぜ、しょうゆと砂糖を混ぜ合わせてさっと煮る。
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