材料を入れて煮込むだけ!ほったらかしチキンカレー

水野仁輔のスパイスレッスン83

夏休みには自由研究がつきものだったよね。

子供の頃は当たり前だったのに、大人になるといつしか自由研究をしなくなってしまう。それは残念なことだと思う。だから、僕がこの夏の君の研究テーマを決めることにした。

カレーにおける調理時間の研究。

ちょっと難しいかな? でも、ぜひ、これについて考えてみよう。

たとえば、オーソドックスなチキンカレーを作るとする。鶏肉が必要だ。買ってこよう。唐揚げ用なんかに切られた鶏もも肉を買ってきちゃいけないよ。夏休みなんだから、いつもと同じじゃ味気ない。丸のままの鶏を1羽、準備するんだ。ここからカレーにする肉を切り分ける。僕はいつもそうしている。切り分けながら部位を確かめ、何をどの料理に使うかを考える。ガラはスープにすればいいから、捨てるところは全くないんだ。

切り方は自己流で大丈夫。大事なことは関節のある場所を探しながら包丁でスッスッと切込みを入れていくこと。何度もやっているうちに慣れてくる。どこに包丁を入れたら切りやすいのかがわかってくる。あまり力を加えなくても部位ごとに切り分けることができるようになる。

鍋には油を入れ、にんにくとしょうが、パウダースパイスを加え、その上から好きな部位の鶏肉を骨付きで500gほど放り込んでおくんだ。

ある程度、スパイスでカレーを作ったことがある人なら、違和感のある行為なのかもしれないね。でも、細かいことは気にしなくていい。

カレーを作るときにかかる時間とはなんのことをさすんだろう? 丸鶏をさばいている時間は? 調理時間だ。火にかけてからいためたり煮込んだりする時間も調理時間だ。お皿に盛り付ける時間は? 調理時間と言えなくもない。だとすると、素材を切るのに10分、火にかけてから45分、盛り付けるのに5分かかるとしたら、このカレーは1時間の調理時間になる。

1時間もかかるなら作るのやめようかな、と思うのかもしれない。でもさ、本当に? 本当にそうなのかどうかを研究してみようよ。夏休みだからさ。

鍋に入れた鶏肉の上から、トマトやタマネギ、ジャガイモを立て続けに加えていく。火はまだつけていない。ついでに塩と砂糖、しょうゆを加えて、水をドボドボと注ぎ入れる。ここでようやく火にかける。マックスの強火にするんだ。ポコポコと鍋中全体が煮立ってくるまで少し時間がかかる。この間に続きを考えよう。

たとえば、調理時間の中身を分解してみる。

「調理時間=拘束時間+自由時間」

こうしてみるとどうだろう? 君がカレーを作っている時間を思い浮かべてみて。何が拘束時間で何が自由時間? 僕の解釈はこうだ。

「拘束時間=鍋と向き合っている時間」

「自由時間=鍋から離れている時間」

拘束時間は鍋中とにらめっこしながらゴムベラを動かしたり鍋の取っ手を持ってふったりしている。一方、自由時間は隣のまな板でサラダ用の野菜を切ったり、食器を洗ったりしている。鼻歌でも歌いながらね。カレーを作っているときは、たいていこのどちらかの時間を過ごしていることになるんだ。

あ、鍋中が煮立ってきた。じゃあ、弱火にしてふたをしよう。キッチンタイマーを30分にセットしたら、また続きを考えようか。

僕はカレーを作る時間の概念を広げたいと思っているんだ。「カレーを作るのに1時間かかります」と言われたら、気後れするかもしれない。このカレーは、キッチンタイマーがなったら火を止めるだけ。すなわち、鍋に拘束されている時間はせいぜい1分程度になる。ほかは何もしない。本を読んでもいいし、友達とおしゃべりしてもいい。仕事だってできる。

逆に「このカレーはたった10分でできます」と言われたら、「カンタンそう!」と喜ぶかもしれない。ただ、その10分間は大変だよ。常に気を抜かず鍋に張り付いていなければならない。どっちがいいかは決められないけれど、両方を自分のものにすれば、選択の幅が広がっていいよね。

カレーが完成した。ふたを開けると鍋中の食材はすっかりとろっとして、カレーソースもさらりとしておいしそうだ。骨からだしも出ているし、スパイスの香りは全体になじんでいる。ごはんと相性がいい。ジメジメと湿気が強くうだるように暑い夏には、これくらいさっぱりしたチキンカレーがいい。

上出来だ。僕は何もしていないのにね。頑張ったのは鍋と火だけだ。これなら僕が作っても、小学生が作っても、だれが作っても同じ味になる。このスタイルを僕は“ハンズオフカレー”と名付けることにした。鍋に触らずにカレーが出来上がるなんて、カレーの世界にちょっとした革命がおこるかもしれないなぁ。

ハンズオフカレー・さっぱりチキン
【材料】
植物油            大さじ3
にんにく(みじん切り)    1片
しょうが(みじん切り)    1片
パウダースパイス
 ・ターメリック 小さじ1
 ・パプリカ   小さじ1
 ・クミン    大さじ1
 ・コリアンダー 大さじ1
鶏肉(骨付き)        500g
トマト(1センチ角切り)   1個
タマネギ(スライス)      1/2個
ジャガイモ(1センチ角切り) 小1個
塩              小さじ1
砂糖             小さじ1
しょうゆ           小さじ1
水              400ml
【作り方】
鍋に材料を上から順に入れて強火にかけ、煮立てる。弱火にして、ふたをして30分ほど煮込む。

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水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。