冷えたビールに合わせたい トウモロコシのフリット

水野仁輔のスパイスレッスン82

好き、嫌い、好き、嫌い、好き……。

昔から定番の花占いである。たいていは「好き」から始めるから、花びらが奇数なら「好き」で終わり、偶数なら「嫌い」で終わることになる。この占いに使われる花は、マーガレットが多いと聞いたことがある。そして、調べてみると花びらの数は21枚だそう。要するに「好き」から始めれば、必ず「好き」で終わる。なんとポジティブな占いなんだろう。

「夏が来てるって」

どこからかそんな声が聞こえて、僕はスーパーでトウモロコシを買ってきた。こいつがとにかくおいしい季節である。スイカもいいけどトウモロコシもいい。何をしてもおいしいトウモロコシを手に眺めながら考える。花占いがあるんなら、トウモロコシ占いがあったっていいじゃないか。

皮をめくってひげを取り、横に寝かせて半分に切る。それから断面をまな板に設置させて塔のように立たせ、芯ごと縦1/4に切った。トウモロコシ占いは気の長い作業である。トウモロコシの黄色い粒を一つずつ取りながら「好き、嫌い、好き……」とやるのだから、考えただけで気が遠くなる。大事なことを占うのだから、そのくらいの覚悟がほしい。

占い用は1本、横に置いておくとして、僕はカレー粉を手にした。同量の塩と一緒に小さな密閉容器に入れてふたをし、シャカシャカとふる。今回のトウモロコシのお供はこのカレー塩である。スパイスと塩の組み合わせは万能で、何か適当なスパイスを複数種類混ぜ合わせて塩を加えれば、たいていの素材はおいしく変身させてしまう。

カレー粉と塩で

この1年ほど、僕はこの作業を“クラフトスパイス”と呼んで楽しんでいる。あれこれとブレンドした中でも、特に「これは!」と心躍った組み合わせには名前をつけている。クラフトスパイス・“オーシャン”とか、“アーバン”とか、“フォレスト”とか。なんとなく香りから想起するシチュエーションを浮かべ、ちょっとだけ格好つけてカタカナで名付けているのだ。このカレー塩も“ムンバイ”とか、“ナマステ”なんて名前にしてみようかと思っている。

クラフトスパイスは、お好みのスパイスと塩をブレンド

トウモロコシは、なんちゃってフリットにすることにした。サクッと軽やかなてんぷらといったところだろうか。てんぷら粉に混ぜる水を炭酸水に置き換え、気持ち多めに加えて揚げるとフリットの気分が出る。

180度に熱した油にトウモロコシをそーっと入れる。芯がついたまま衣をつけて揚げるのがいい。食べるときに芯を残して粒だけをがぶがぶやるのだが、1/8に切ってあるから丸ごとのトウモロコシにかぶりつくよりも食べやすい。

花びらの枚数は、フィボナッチ数列と呼ばれる数列に従っているという。マリーゴールドが13枚で、マーガレットは21枚。どちらも奇数だが、たとえばヒナギクは34枚か55枚か89枚、ヒマワリは89枚か144枚など、奇数と偶数が混在する。これなら占いの結果は「好き」になるかもしれないし「嫌い」になるかもしれない。スリルがあっていい。

トウモロコシが揚がったら、熱いうちにカレー塩なりクラフトスパイスなりをふりかける。揚げ物とスパイスの相性は抜群。スパイスの香りは温度上昇によってさらに引き立つ性質があるから、揚げたての衣にスパイスがふりかかると、食欲をそそる香ばしい香りが一気に立ち上ってくる。「ビールを一杯!」と誰もいないキッチンで思わず声をあげたくなる。さっき、てんぷら粉に加えた炭酸水があるから、それでもいいだろう。

今、料理研究用の小さなキッチンを借りようとしている。とはいえ、先行きの見えない時代だから即決するだけの勇気がない。トウモロコシのフリットを食べながら、占ってみようかな。借りる、借りない、借りる、借りない、借りる……。危険な行為である。だってトウモロコシの粒の数は偶数なのだから。粒の元になる雌花が二つ1組で軸につく性質があるからだそうだ。結論は、必ず「借りない」になってしまう。いやだ! 僕は借りると決めたんだ!

二者択一の悩みなんて、たいてい心は決まっているのである。好きか嫌いかだって自分はわかっている。きっと好きだと思いたいのだ。だから、花びらを摘んだ結果が「好き」になったらほっとするのだし、「嫌い」になったら花びらがなくなった花を手にしたまま、「でもやっぱり好き」とつぶやくのである。だから本当は占う必要なんてないのさ、僕の場合はね。

トウモロコシのフリット風・スパイスの香り
【材料】
トウモロコシ 3本
てんぷら粉  50g
炭酸水    90~100ml
揚げ油    適量
カレー粉   少々
塩      少々
【作り方】
カレー粉と塩を混ぜ合わせておく。トウモロコシは半分に切ってから縦4等分にする。天ぷら粉と炭酸水を混ぜ合わせ、トウモロコシに衣をつけて180度の油で揚げる。カレー塩をふりかける。

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水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。