青々とした香りがふわりと広がる アスパラガスの冷製ポタージュ

水野仁輔のスパイスレッスン81

「お前が落としたおのは、金のおのか? それとも銀のおのか?」

「いいえ、僕が落としたのは、使い古した鉄のおのです」

正直者が得をするという、イソップ童話だったと記憶している。このあと欲張りな男が同じことをしてうそをつき、川の神様に怒られる。欲張りは損をするのである。でもね、現実はそうもいかなかったんだよな。

アスパラガスの皮をむき、半分に切る。シシトウのヘタを落とし、縦半分に切ってから種をせっせと取り除く。グリーンチリも同じようにして種を取り、ミントやディル、パクチーなんかと一緒にボウルに放り込む。

フライパンにオリーブ油を熱し、アスパラガスだけを並べてふたをし、軽く火が通るまで蒸し焼きにした。もうすっかり梅雨入りし、春の気配は吹き飛んでしまっている。もう夏だ。旬のアスパラガスと出会えるのもこれで最後だろう。春が残していったこの野菜からは、まだいい香りが漂ってくる。

おのの話に戻ろう。たとえば父親が、幼い僕たち3人の兄弟にお土産を買ってきたとする。金のバッジと銀のバッジと鉄のバッジだ。長男の僕は、僕なりに空気を読み、妹と弟に気を遣って心にもないことを言う。

「この鉄のバッジ、なかなかいい感じだね」

すかさず弟が声を上げる。

「やったー! じゃあ、俺、金のバッジがいい!」

妹が続く。

「あ、じゃあ、私は銀のバッジにするね」

そして僕は黙りこむ。“残り物に福がある”なんて言ったのはどこのどいつだ!? 気を遣って損をした。無邪気な欲張りの方が得をしているじゃないか。

目の前に並んだ青々とした素材たちは、ぜんぶ残り物である。春が残してくれたアスパラガスはまだしも、その他の野菜やハーブはたいてい買う量と使う量のバランスが取れない。1パックに30本もシシトウが入っているのに、ひとつの料理に使うのは3本だったりする。27本が残る。グリーンチリだって、ハーブだってそうだ。とにかく中途半端に余る。なのに使い道がない。どっさり使えるレシピはどこかにないものだろうか。

僕はいいとこ取りされてのけ者のようになった素材たちをスープで煮ることにした。このチキンブイヨンだってポトフを作ったときの残り物である。塩を加えて全体がくたっとするまで煮る。残り物たちが目の前でくたっとしていく。切ない。救いようのない光景だ。

なぜ人は欲しいものから順に手を出そうとするんだろう。好きなものばかりを手に入れ、抱え込んでいったいどこへ行こうとしているんだろう。「要らないよ」とか「なんでもいいよ」って人はいないんだろうか。んんん、なかなかいないよね。僕だって、今なら「金のバッジがほしい」とハッキリ言いたいもん。

粗熱の取れた青野菜やハーブをスープと共にミキサーでペーストにする。鍋に戻して生クリームを加え、ふつふつと煮込む。くたっとするどころか形も失い、混然一体となってしまったのに、それぞれの香りがふわりと漂ってくるから不思議だ。青臭さが適度に飛んで、素材そのものの香りが控えめに主張する。

手間じゃなければ鍋に戻す前に目の細かいざるでこすのもオススメ。ぎゅっと絞ってエキスを抽出すると、何かとてもぜいたくなものをこしらえているような気分になる。残り物に豊かさを感じる不思議な時間だ。煮込んで全体がなじんだら、仕上げにバターを溶かし混ぜる。

世の中には2通りの料理があると思う。必要な食材を選りすぐって作る料理と、残り物を工夫して作る料理だ。常にこれらがセットになっているといい。「あれを作ろう」と食材を買ってきて必要な分だけ使ったら、残った食材を眺めて「これが作れるね」と別の料理を作る。どっちがおいしいかは決められない。金のおのや銀のおのがいつも鉄のおのよりいいとは限らないのだ。

このポタージュは温かいままでもいいけれど、冷蔵庫で冷やしてから食べるとよりおいしく感じられる。絶対にこの食材がないとダメ、みたいなレシピじゃないから、残っている青野菜やハーブを適当に使えばいい。作るたびに新しい味わいに出会えて楽しめるんじゃないかな。おまけに体にもよさそうだしね。うん、やっぱり残り物には福があるのかもしれないなぁ。

●アスパラガスとハーブの冷製ポタージュ
【材料】
青野菜
・グリーンアスパラガス    大15本(360g
・グリーンチリ(種を取る)  大6本(25g
・シシトウ(種を取る)    20本(45g
ハーブ類
 ・パクチー           2枝(30g
 ・ディル          5枝(8g
 ・スペアミント       1カップ(10g
チキンブイヨン 600ml
塩       小さじ2強
生クリーム   200ml
バター     30g
【作り方】
フライパンに少々のオリーブ油を熱し、アスパラガスを蒸し焼きにする。粗熱をとってハーブ類とチキンブイヨン、塩と共に弱火で煮る。全体がくたっとしたら粗熱をとってミキサーでペーストにし、鍋に移して生クリームを加え、弱火で煮る。バターを溶かし混ぜる。粗熱をとって冷蔵庫で冷やす。

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水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。