袋麺をアレンジ!外出自粛を最大限に楽しむ「味変ペースト」作り

水野仁輔のスパイスレッスン75

時間がない、時間がない、なんてボヤキながら、やるべきことを先送りにして日々を過ごしていた僕が、突然、たっぷり使える時間を手にしてしまった。さあ! やるぞ! ため込んでいたあれやこれやを! と意気込んではみるものの、現実はそうもいかないのである。こういうときに限って、やらなくてもいいことで自分の時間を浪費しようとしてしまうのだ。なぜか僕はヒッチコックのDVDをたっぷり買い込んでしまった。

映画をみながら料理でもするか、とキッチンを眺めてみたが、食材がほとんどない。冷蔵庫の中も空っぽである。まさかの事態だ。ふと横に目を移すと、玉ねぎが四つだけある。僕は皮をむき始めた。最近マイブームの蒸し煮をしておこうと思ったからだ。

くし形切りした玉ねぎを鍋にバンバン入れていく。塩をふって水を注ぎ、ふたをして強火にかけた。タイマーを30分に設定して映画をスタートさせる。ずいぶん前から時間が解決してくれる調理にハマっている。火の注意だけをしておけば鍋に張り付いていなくても、勝手に加熱が進んで食材がおいしくなるのがいい。

いまどきDVDを買うなんてもったいない、と思う人が多いかもしれない。でも、僕は、映画はDVDを買って観るし、音楽はいまだにCDを買って聴いている。書籍が好きでカレーの本を山ほど作っているせいか、「物を作る」という行為に執着がある。だからDVDとかCDのようにパッケージされたものに愛着があるし、映画や音楽を消費するときの自分流のリスペクトのつもりでいる(あまり意味のないことかもしれないけれど)。

その結果、お金を浪費(?)して買ったDVDで時間を浪費(?)しているのである。そんなふうにしている間も、コンロの火と玉ねぎはせっせと共同作業を続けてくれている。ピピピとタイマーが鳴ると火加減を中火にし、さらに30分。もう一度、ピピピと鳴ったのを確認してふたを開けた。

鍋にくたっとなった玉ねぎと水分が残っている。油を加えて強火にし、水分を飛ばすようにいためていく。パチパチと音が強まってくるから、映画のボリュームを大きくした。ヒッチコックを観ながら玉ねぎを炒めるのは、慣れないと大変かもしれない。プロジェクターを投影した壁には非現実、手元には現実。そこを行き来しながら時間を過ごす。目では物語の展開を追いながら、鍋中で生まれる香りや音を頼りに玉ねぎの加熱状態を把握できるようになるから、調理トレーニングにもちょうどいい(よい子はマネしないでね)。

15分でタイマーが鳴り、中火にしたら最後の15分が始まる。ひたすら炒め続けるのだ。ここは割と忙しい。鍋いっぱいにあったはずの玉ねぎは、脱水し、握りこぶし大よりも小さくなってしまった。一瞬、「僕はこの玉ねぎさえも浪費しているんじゃないだろうか」と不安になるが、この塊にはうま味と香味が凝縮されているのだ。

それにしてもヒッチコックはどの作品をみてもハラハラ、ドキドキする。そればかりか、心の奥をえぐられるようなスリルがある。そういえば、昔、誰かにサスペンスとミステリーの違いを教えてもらったことがある。「最初から犯人がわかっているのがサスペンス、最後まで犯人がわからないのがミステリー」だと聞いて、「なるほどぉぉぉ!!!」と感動した記憶があるが、調べてみるとちょっと違うらしい。「感情や心理描写に主眼を置くのがサスペンス、謎解きに主眼を置くのがミステリー」ということだそうだ。たとえばアルフレッド・ヒッチコックがサスペンス映画監督、アガサ・クリスティがミステリー作家と呼ばれるのは、そういう解釈からだろう。

ヒグマのような茶褐色になった玉ねぎにカレー粉を混ぜ合わせる。粉っぽいカレー粉が油を吸い込んで玉ねぎと混ざり合う。この作業は火を止めてすぐ鍋の中でやるといい。いい香りが立ち上って心地よいからだ。これを僕は「カレーの素」と呼んでいる。粗熱が取れて密閉容器に入れれば、冷蔵で1週間は保存できる。使い方は自由。好きなものに添えたり混ぜたりすればいい。マヨネーズと混ぜれば揚げ物用のペーストになるし、袋ラーメンの味変にもなる。

要するにすべての料理をカレー風味に変身させてしまう万能の調味料だが、使うときにはミステリー感覚で楽しみたい。いったいどうなるの? ここにカレーの素を入れたら、どんな味わいに変わるの? ん!? これはどちらかといえば、サスペンス感覚の楽しみ方になるのだろうか。いずれにせよ、未知の味わいと出会える可能性は高いと思う。

◆カレーオニオンペースト
【材料】
玉ねぎ(くし形切り) 4個(1キロ)
塩          大さじ1弱(10グラム)
水          2.5カップ(500ミリリットル)
植物油        大さじ2
カレー粉       大さじ3
【作り方】
鍋に玉ねぎと塩、水を入れて強火でふたをして30分煮込み、中火にしてさらに30分煮込む。ふたを開けて油を加え、強火で15分いため、中火にして15分いためる。火を止めてカレー粉を混ぜ合わせる。

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水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。