いつものごはんが違った味わいで楽しめる カレー風味の豚汁

水野仁輔のスパイスレッスン74

冬が終わり、春がもう来てしまった。だから僕は慌てて大根やごぼうを買ってきたのだ。冬野菜に別れを告げなくちゃいけないからね。何を作ろうか、と考えながらしげしげと眺めてみる。当たり前のことだけれど、大根は大根らしく、ごぼうはごぼうらしい姿をしている。冬が終わっても冬野菜は立派なままである。

何を作るか浮かばないから、とりあえず大根はいちょう切りにし、ごぼうは薄めの乱切りにして水にさらし、アクを抜くことにした。傍らにあるにんじんも大根と同じくいちょう切りにした。汁もの料理でしみじみと温まる季節はしばらくお預けになるのだろうか。水をはった鍋にだしの袋を入れて極弱火にかけた。

僕は男子だから、男子は男子らしくありたいと思っている。とはいえ、男子が男子らしいことは本当にいいかどうかわからない。世の中には女子っぽい男子もいて、意外と最近は、こっちのほうが人気があるようだ。男子らしい男子なんて古臭い。女子っぽい男子は“フェミニンだ”とか“優しそうだ” とかアーティスティックだとか言われてモテたりするのである。

煮立った鍋からだしの袋を取り除き、大根とにんじん、ごぼうを入れる。大根は大根らしい方がいいに決まっている。ごぼうっぽい大根とか、大根っぽいにんじんとか、にんじんっぽい……とか、そんなふうだと何を食べているのかわからなくなってしまうじゃないか。だから僕は、鍋に“ザ・大根”を入れ、“ザ・ごぼう”を入れているのである。

女子はどうなんだろう? やっぱり女子らしい女子がいいと思っている女子は多いんだろうか。なんとなく僕の印象では、女子らしい女子の方が男子っぽい女子よりもモテそうな気がしている。女子っぽい男子がウケ、女子っぽい女子がモテる。この世は女子力次第、ということなのかもしれない。一方で僕は、男子っぽい女子の方がいい。気の置けない感じで楽だからかな。もっと言えば、“女子っぽい女子に憧れる男子っぽい女子”だったらベストである。ま、そんなことはどうでもいいか。

パウダースパイスを4種類、スプーンで混ぜ合わせ、カレー粉を作る。ターメリックとパプリカが混ざってきれいなオレンジ色になったとき、残りの2種類のスパイスを前に思う。クミンは男子っぽく、コリアンダーは女子っぽい。だからというわけじゃないけれど、僕はコリアンダーが好きだ。

カレー粉を器に入れ、同じサイズの器に合わせみそを入れて並べてみる。カレー粉は男子っぽい。みそが女子っぽく感じるのは、おふくろの味みたいなイメージがあるからだろうか。男子っぽいカレー粉と女子っぽいみそを混ぜたらどうなっちゃうんだろう。遊び心が芽生えて、ネリネリと混ぜ合わせる。意外といい香りになった。あとで料理に使うことにしよう。

野菜が煮えたら豚バラ肉と水に戻したしいたけを加える。もちろん戻し汁も一緒に。だしのうま味が鍋の中で重なり合う。さっと煮れば火が通る。お豆腐を加えてさらに少し煮る。ここでさっきネリネリしたものを溶かし混ぜる。おたまにのせて鍋中に沈め、菜箸でカチャカチャとしながらゆっくり。溶かしながら考えた。この練り物は、カレー粉なんだろうか? それともみそなんだろうか? カレー粉っぽいみそなのかもしれないし、みそっぽいカレー粉なのかもしれない。

できあがった料理をお椀に盛り付けた。テーブルに運んでごはんの右側に置き、仕上げに取りかかる。男子っぽいバターと女子っぽい青ネギを添えるのだ。豚汁を食べるとき、僕の父親はバターを溶かし入れ、母親は青ネギを添えるのが気に入っている。昔も今も変わらない。そう、僕は豚汁を作ったのだ。しかし、この豚汁はカレーの香りがする……。

食べてみると、味わいは不思議とうまい。バターのコクや豚肉の脂の甘み、野菜の味わい、だしのうま味。それらの要素をカレーみその風味が見事にまとめてくれている。いつもと同じごはんが、いつもと違った味わいに楽しめる。豚汁は豚汁らしく、カレーはカレーらしくなんて考え方はもう古いのかもしれない。このカレー風豚汁、または、豚汁風カレーは、フェミニンで、優しく、アーティスティックな料理なのだ。

◆カレー風味の豚汁
【材料・2~3人分】
水              2~3カップ
だしの素(無添加)      1袋
大根(いちょう切り)     50グラム
にんじん(いちょう切り)   40グラム
ごぼう(薄めの乱切り)  40グラム
豚バラ肉(スライス)   50グラム
干ししいたけ(水で戻す) 適宜
豆腐(2センチ角に切る)  小1丁
合わせみそ                       大さじ2
カレー粉
 ・ターメリックパウダー   小さじ1/2
 ・パプリカパウダー       小さじ1/2
 ・クミンパウダー        小さじ1
 ・コリアンダーパウダー     小さじ1
バター                             10グラムほど
青ネギ(細かく切る)     適量
【作り方】
鍋に水とだしの素を加えて弱火でじっくり煮て、煮立ったらだしの素を取り出しておく。大根、にんじん、ごぼうを加えて軟らかくなるまで煮て、豚肉、しいたけを加えて煮て、豆腐を加える。みそとカレー粉を混ぜ合わせて加え、溶かす。器に盛ってバターと青ネギを添える。

【水野仁輔のスパイスレッスン】これまでの記事はこちら

【あわせて読みたい】
不思議なうまさがヤミツキに 豚バラと鶏モモのさっぱり煮
カラフルな色を楽しむ 虹色サラダ
甘いものが苦手な彼に スパイス入りチョコクッキー

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。