不思議なうまさがヤミツキに 豚バラと鶏モモのさっぱり煮

水野仁輔のスパイスレッスン73

優柔不断な性格ではないと自覚している。

「Aにする? それとも、Bにする?」みたいな選択を迫られたとき、正しい方を選ぶ自信はないが、決断だけは早い。Aを選んだ後に「Bにしておけばよかった」などと振り返ることもない。即決したAで僕は幸せに生きていけるのだ。

ついでに言えば、ずるい解決策も身に付けている。たとえば、骨付きの豚バラ肉と骨付きの鶏モモ肉があったとする。今夜はどっちにしようかな。頭は豚肉を食べたいと言っているのに、心は鶏肉に奪われている。しまった、究極の選択である。こんなとき、キミならどうする? ボクはね、両方とも使うんだ。

フライパンに油を熱し、豚肉と鶏肉を加えて表面に焼き色がつくまでいためる。肉には少し切り込みを入れておいた方がいいし、あらかじめ塩こしょうをふっておくと、さらにいい。とにかく、炒める。量が多いからフライパンに一度に入らなければ二度に分ければいい。そんなときは、1回目に豚肉、2回目に鶏肉と分けないほうがいい。そんなことしたら優柔不断なキミは、豚肉を炒め終わった時に「やっぱり鶏肉は明日に取っておこうかな」とか思ってしまうでしょ? それはいけない。幸せになれないよ。焼き色がついたら肉を深めの鍋に移して、水を加えて煮る。最初から鍋で炒めた場合は、余計な油脂分はすべてふき取っておこう。

究極の選択だなんて言っておいて、両方使うなんてズルすぎる。キミはそう言うだろうね。ちょっと言い訳をさせて。これは、両方を使う料理なんだ。ネットで、とある料理が話題になっていると聞いて調べてみた。そうしたら、そのレシピの開発者が「これはアドボがベースです」と言っている。彼は豚肉と鶏肉を同時に使っていたんだ。

アドボっていうのはフィリピンで有名な料理。いつか取材しに行きたいと思っていたから、僕は僕なりのアドボを作ってみようと思ったんだ。

水がグツグツと煮立つまでの間、アドボ用のエキスを混ぜることにした。

スパイスで欠かせないのは、にんにくかな。この香りが決め手になると信じている。次に黒こしょう。生のこしょうがあったらステキだけれど、乾燥していても悪くない。ここは赤唐辛子でもいいんだけれどね。ピリッと辛みを作るのがいい。それからローリエ。煮込み料理には定番だよね。シナモンで代用したらちょっと深みが出そうだな。

味はしょう油。塩のほうがシンプルかもね。さらにオイスターソースも。ナンプラーでもよかったかなぁ。最後にパイナップルジュース。肉を軟らかくするのにはこれがいい。甘味と風味も隠し味になる。梅酒もありだ。

エキスを混ぜながら、「あれ?」と思った。ずいぶん僕も優柔不断じゃないか。こっちもいいし、あっちもいいだなんて。エキスを混ぜ合わせ、ふたをして弱火で煮込む。60~90分くらい。まあ、煮込み時間はやることがないわけだから、どうせなら長めに煮込んでおけばいい。その間、僕の優柔不断エキスについて考えてみようか。

エキスに入れるアイテムは、6種類ある。でも、それぞれに代案がある。こういうとき、レシピでは、「または」という魔法の言葉を使う。「にんにく(または、しょうが)」としたら、作る人が好きな方を選べる。そして、このレシピはどれを選んでもどれもおいしくなりそうだ。

すなわち“2の6乗で64通りのアドボができることになる。ということは、毎日アドボを作っても、64日間は楽しめるんだ。2か月以上だよ! 2か月間、毎日違う味のアドボ。なあんだ、優柔不断も悪くないじゃないか。

煮込みが完了したら、そのまま器に盛り付けて、たっぷりとあるスープと共に肉を食べてもいい。もっとこの料理の完成度を高めたければ、肉だけを取り出して器に盛り、残ったスープを強火で煮詰め、少し濃厚でとろみの利いたソースに変身させて、まわしかけるといい。うま味と辛味、酸味、香りが混然一体となって、やってくる。ぜひ、ご飯と一緒に食べたい。ご飯が止まらなくなることを約束するよ。

さて、困ったな。AかBかの選択で、AにしてもBにしてもおいしくなることがわかってしまったら、僕の人生の決断力は鈍ってしまうじゃないか。毎日、アドボばかり食べるわけにもいかないよなぁ、飽きるよなぁ、きっと。ちょっとしばらく考えることにするよ。

◆豚肉と鶏肉の煮込み・アドボ風
【材料】
植物油          大さじ1
豚バラ肉(あれば骨付き) 500グラム
鶏モモ肉(あれば骨付き) 500グラム
水            400ミリ・リットル
エキス
・にんにく       3片(または、しょうが 3片)
・黒こしょう      小さじ2(または、赤唐辛子 3本)
・ローリエ       2枚(または、シナモン 1本)
・しょう油       大さじ3(または、塩 小さじ1強)
・オイスターソース   大さじ2(または、ナンプラー 大さじ2)
・パイナップルジュース 200ミリ・リットル(または、梅酒 100ミリ・リットル)
【作り方】
エキスの材料をすべて混ぜ合わせておく。鍋に油を熱し、豚肉と鶏肉を加えて表面全体が色づくまで炒める。油脂分を取り除き、水を注いで煮立てる。エキスを加えて60分~90分ほど煮込む。肉を取り出して器に盛り、残ったソースを煮詰めてまわしかける。

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水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。