ちょっと値の張るワインと一緒に クミン風味のラムチョップ

水野仁輔のスパイスレッスン70

禁酒貯金というものを始めたんだ。ほら、新しい年を迎えると何かを始めたくなるでしょう? それそれ。“というものを”って言ったけどさ、別にそういうものがどこかにあるわけじゃないよ。僕が勝手にそう呼んでるだけ。要はお酒を飲まない日をできるだけ増やすの。飲まなかった日は1日につき500円貯金したことにする。そうするとね、1か月でなんと1万5000円がたまる。

ラムチョップに塩をふって冷蔵庫に入れる。肉を焼くとき、塩の量は肉の重さのだいたい1パーセントと決めている。500グラムのラムチョップなら5グラムの塩をふる。まあ、骨がついている分、気持ち少なめに塩をふったほうがいいと思うけれどね。もうひとつ、塩のふり方で気に入っていることがある。焼く直前じゃなくて、だいぶ前にふっておくんだ。

フランスの物理学者だったかな、彼が書いた調理科学の本に書いてあったやり方で、実践してみたら、塩味がしっかり浸透していてとってもおいしかった。肉の種類や部位、サイズにもよるんだけどね。とにかく、肉の中まで塩が入っていく時間というのは、予想しているよりもはるかに長いんだって。

1万5000円が貯まったら、何に使いたい? え? 銀行に預ける? いやいや、禁酒貯金はその月のうちに使い切るのがルールなんだ。しかも、お酒で貯まったお金だからお酒に使う。僕は1万5000円するワインを1本だけ買うことにしている。そんな高いワイン、なかなか買えないよ。レストランでボトルで注文したら、4万5000円はするかもね。ドキドキしちゃうよね。でも、これは自分へのご褒美なんだ。

ラムチョップを冷蔵庫から取り出して30分ほど置き、常温に戻す。この30分の間にやっておくことがある。クラフトスパイスというものを作るんだ。というものをって言ったけどさ、別にそういうものがどこかにあるわけじゃないよ。僕が勝手にそう呼んでるだけ。要は、自分で好きなようにスパイスを混ぜ合わせて食材をおいしくする行為のこと。

準備したのは、すりごまとクミンシードとブラックペッパー。クミンシードはまな板の上に出し、包丁で刻んでおこう。ちょっと難しかったら、すり鉢ですってもいい。ブラックペッパーは粗びきがいいかな。フライパンにすべてを入れて中火でからいりをする。香ばしい香りが立って全体的にほんのり色づいてきたら小さなボウルにでも入れておこう。空いたフライパンでそのままラムを焼くんだ。

もともとお酒はそんなに強くないんだけど、好きだから飲むでしょう? 最近、年をとったせいか、翌日に残るんだ。仲間に相談したら、「安い酒を飲むからだよ」って。確かにいい酒を飲んだ翌日は調子は悪くない。それで思いついたんだ、禁酒貯金ってやつをね。日常の酒を我慢して、たまに極上の酒を飲む。ちょっとブルジョワ気分。すてきじゃない?

ラムチョップを焼くのは、強火で短時間。だって両面を90秒ずつ合計3分だから。10本のラムチョップがあったらフライパンに並べていく間、裏返している間に数十秒かかるから、実際にはもう少し長く焼かれていることになるけどね。肉の厚みがそれほどなければ60秒ずつでもいい。

焼き終えたらすぐにフライパンの外へ出す。アルミホイルで包む。そこから6~7分かな、放置することで、余熱でじっくり火を通していくんだ。長めに焼いたら短めに放置。短めに焼いたら長めに放置。そんなふうに微調整ができるようになると肉焼きは楽しくなってくる。

余熱の間に僕はワイングラスを布巾でピカピカに磨くんだ。棚に収納したまま日の目を浴びなかったグラスが活躍するときがきた。7分間ってまあまあ長いからね。BGMにかけるレコードを選んでもいい。余裕があればレコードの盤面も拭いちゃおうかな。いいワインを飲む準備は大事だよね。

ラムチョップを食べやすいサイズに切ると、断面がきれいなピンク色になっている。ああ、おいしそう。器に盛ってクラフトスパイスを盛大にふりかける。ラム特有の風味とクミンやごまの香りがマッチしてイケる。「ああ、肉に塩こしょうの時代は終わったのかな」なんてつぶやきながら、ラムチョップを味わうんだ。

……なあんていう豊かな時間を今週末、過ごそうと思うんだけど、来ない?

    ◆ラムチョップ焼き クラフトスパイス
    【材料】
    ラムチョップ 10本(550グラム)
    オリーブ油 少々
    塩 小さじ1強(5.5グラム)
    クラフトスパイス(混ぜ合わせて乾煎りする)
     ・白すりごま 小さじ1強
     ・クミンシード(包丁で切る) 小さじ1
     ・ブラックペッパー 小さじ1弱
     【作り方】
    ラムチョップに塩をふり、冷蔵庫で2時間ほど置く。冷蔵庫から出して30分ほど置き、常温に戻す。フライパンにオリーブ油を強火で熱し、ラムチョップを並べて両面90秒ずつ焼く。取り出してアルミホイルで包み、7分置く。切って器に盛り、クラフトスパイスを盛り付ける。

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    水野仁輔
    水野仁輔(みずの・じんすけ)
    カレー&スパイス研究家

     1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。