自家製マヨネーズをスパイスで絶品ソースに

水野仁輔のスパイスレッスン69

“犬猿の仲”という言葉の語源は、十二支の物語に由来するという説があるそうだ。猿が、元旦に神様のもとに到着したのは9番目、犬が11番目。猿と犬は一緒に出発するほど仲が良かったが、競争心から途中で争い始めたために、「(元は仲が良かったのに)いがみ合うほど仲が悪くなった間柄」のことを言うらしい。

どうして誰かと誰かはいがみ合うのだろう。もっと仲良くすればいいのに。今年の干支えとであるネズミなんてトップでたどり着いているのだから、ネズミにとっては下位争いのどうでもいい話かもしれないな。食べ残したおせち料理のエビにマヨネーズをつけて食べながら、ふとそう思った。

さっき作ったばかりの自家製マヨネーズは、とっても簡単だ。材料を準備したら1~2分でできてしまう。ボウルを準備して、オリーブ油以外のすべての材料をよく混ぜ合わせる。さらっとしたきれいなオレンジ色のソースができあがる。ここからが肝心だ。

オリーブ油を加える時の混ぜ方がポイント。まず、ボウルの下に布巾ふきんか何かを置いて動かないように固定する。左手にオリーブ油を持ち、右手には泡立て器を持つ。右手でシャカシャカとボウルの中を手早くかき混ぜながら、左手を傾けていく。
糸をたらすようにゆっくりとオリーブ油を加えていくんだ。右手と左手が別々の動きをしなくてはならない。ピアノを弾ける人は得意な技かもしれない。

このマヨネーズなんてものはさ、本来、お酢と油が仲良くした結果、生まれるものなんだ。ほら、手を取り合えばいいこともあるのにね。まあ、お互いに譲れないものもあるのだろう。僕は誰かに対して「嫌い」という感情はほとんどわかない性格だ。

いいのか悪いのかは別として、世の中には自分にとって“興味のある人”と“興味のない人”しか存在しない。だから、嫌いな人は一人もいないことになる。

“興味のある人”の中に、“好きな人”と“それほど好きというわけではない人”がいる。だから、興味があって好きな人、興味はあるけど好きまではいかない人、興味のない人の3タイプになる。だからどこかの誰かと犬猿の仲になることはない。結果的にとても居心地のよい環境ができあがる。

ボウルの中にあるオレンジ色のソースとオリーブ油は、犬と猿ならぬ、“水と油の関係”というやつである。ケンカしているかどうかはわからないが、普通に混ぜても混ざり合うことはない。

ところがゆっくりゆっくり攪拌かくはんを続けることで、乳化という現象がおきる。やがてボウルの中は、どっちがどっちだったのかわからないほど一体化する。水と油が仲良くし始めた結果、ぽってりとしたおいしいマヨネーズができあがるのだ。

年末に立派なエビをどっさりいただいた。まだピチピチと生きのいい状態である。煮ても焼いてもうまいはずだが、僕は蒸すことにした。この方法が最もエビのおいしさを味わえそうな気がしたからだ。塩だけふって食べるのも魅力的だったが、マヨネーズを自分で作ってつけることにした。エビを蒸している間にマヨネーズを準備すれば、10分後にはおいしい味わいにありつけることになる。

正月が過ぎて残ったおせち料理や食材があったら、かたっぱしから楽しむことができる強力な味変アイテムになる。

シンプルに作るなら、レモン汁と卵、塩を混ぜ合わせ、油を加えて乳化させればいい。でも、ちょっと香りが欲しくなって、すりおろしたにんにくとターメリックパウダー、パプリカパウダーを加えてみた。

スパイスの香りが入るだけで、知っているマヨネーズがまるで別の風味を持つ。マヨネーズを作るときの材料に、にんにくの香りを追加すると、できあがったものは“アイオリソース”と呼ばれることもあるらしい。南仏生まれで、プロヴァンス語のalh(にんにく)とòli(油)から生まれた造語だという。乳化という仲直りが大事なのはマヨネーズと変わらない。

誰かと誰かの仲が悪くなったときの乳化の方法も見つけてくれないかなぁ、誰か……。

◆蒸しエビのスパイシーアイオリソース添え
【材料】
アイオリソース用
 ・オリーブ油      120ml前後
 ・卵黄         1個分
 ・にんにく(すりおろし) 1片
 ・塩          適量
 ・ターメリックパウダー 少々
 ・パプリカパウダー   少々
 ・レモン汁       1/2個分
エビ  適量
 【作り方】
エビとオリーブ油以外のすべての材料をボウルに入れてよく混ぜ合わせる。オリーブ油をゆっくり加えていきながら、泡立て器で細かく攪拌し続ける。ぽってりとしたマヨネーズ状態になれば完成。蒸したエビに添えて盛り付ける。

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水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。