カブで滋味深いポタージュ…ディルでお洒落に

水野仁輔のスパイスレッスン65

「カブをもっとお洒落しゃれに料理したいの」

彼女がそう言ったとき、僕はとっさに身構えた。

「レンチンしてから味噌みそと一緒に食べたり、そぼろあんかけにしたり、居酒屋のようなメニューしか作れないから」

わかるよ、気持ちはわかる。でも、そう言われてもなあ。僕が、「お洒落」というものを警戒するようになったのは、いつからだろうか。理由は明確にある。お洒落は僕をダメにするからだ。

手にしたカブをしげしげと見つめてみる。そのままでもう十分お洒落な存在じゃないか。そうか、元はお洒落なのに、素朴な居酒屋メニューになってしまうことのギャップに不満があるのかもしれない。

お洒落に料理するならポタージュかな。我ながらアイデアがとぼしいが、スープと言わず、ポタージュと言うあたりに精いっぱいの背伸びを見せているつもりだ。

大きめのカブだから四つ割りにし、鶏手羽先と水と一緒に鍋に入れ、火にかける。沸騰ふっとうしてくると白いアクがでる。アクは白くきれいであればまずくはないから引く必要はないと思っているが、お洒落にするのだから丁寧に引いておこう。肉もカブもくたっとさせたいから、ふたをして弱火で放置する。45分間。長めの時間だが、とりたてて手を動かす必要はないのだから、お洒落について考えることにしよう。

お洒落が、なぜ僕をダメにするのか。それは、僕が本当の僕よりもよく見えてしまう危険があるからだ。ありのままの僕の魅力が10ポイントだとしたときに、その僕がお洒落をすることによって、20ポイントとか30ポイントに見られてしまう。

「水野さんって、(30ポイントくらい)ステキです」

誰かが僕をプラス20ポイント分、買いかぶってしまったら、単純な僕はうっかり喜んで努力をおこたってしまうだろう。それが怖い。僕はできることなら、ありのままの自分よりも常に低く評価されたい。生のカブがそれなりに素敵すてきだとしたら、レンチンして味噌を塗りたくり、適当な器に無造作に置かれているくらいがちょうどいいのだ。

煮込み終わった鍋のふたを開けると、鶏肉とカブの風味がふわりとおどり出てくる。だしのうま味が抽出ちゅうしゅつされた合図だ。スプーンにすくってスススッと吸うと、優しく深い味わいに満たされる。このまま深めの器に盛り付ければ、「鶏手羽先とカブのスープ」ができあがる。ただ、ちょっとお洒落さに欠ける。

スープをしてボウルに取り置き、鍋に鶏手羽先を戻し、カブはすりこ木でつぶすことにした。そう、スープからポタージュへと変身させるための作業である。つぶしたカブを鍋に戻すと牛乳を注ぎ、再び火にかけた。白いカブと白い牛乳が溶け合って温まっていく。美しい。ボウルに取り置いたスープの方は、あとでリゾットにでもしようかと思っている。

ヒューヒュー! 全く俺ってお洒落だぜ。ま、面倒になったら米と一緒に炊飯器に入れたら、風味豊かな炊き込みご飯。それじゃ居酒屋メニューだけどね。

お洒落を遠ざけることで、「自分なんてまだまだだな」と向上心を燃え上がらせる。

「水野さんって自己評価が低いですよね」

つい最近、そう言われたことがある。そう、確かに僕は自己評価が極めて低い。ただでさえ「自分なんて」と思っている自分が、「自分なんて」の上塗りをする。容姿には頓着しない。髪は10分1200円で切っているし、カレーTシャツ以外の私服はほとんど持っていない。ほどよくみすぼらしくしておきたい。

中身についても過小評価をよしとする。面倒くさい性格だとか、責任感が足りないとか、バカばっかりやってるなとか、あの人の作るカレーはたいしたことないよねとか、言われていたい。要は自虐体質なのである。

そんな僕が、カブをお洒落にしようとしている。なんだか笑っちゃう。できあがったポタージュを器に盛り、ディルをちぎった。僕はこのハーブの香りが、どうしようもなく好きだ。最近は、スーパーのハーブコーナーでディルを見かける機会も増えたからうれしい。真っ白なこのポタージュに鮮やかな緑。お洒落じゃないか~。

彼女が食べに来る前にちょっと味見、とスプーンを口に運ぶ。滋味深いとろっとしたカブを食べていたら、ふと大事なことに気がついた。

そういえば、ベーコンとオリーブ油を忘れていた……。

フライパンで千切りしたベーコンをカリッカリに焼いて散らし、香りのいいオリーブ油をまわしかける。これで見た目も味も一段とグレードアップするのだ。

ふう、気がついてよかった。しかし、お洒落は大変だ。

◆鶏手羽先とカブのポタージュ
【材料】
鶏手羽先 4本
カブ(1/4に切る) 大3個
水 1000ml
塩 小さじ1
牛乳 400ml
ディル(ほかハーブ) 適量
ベーコン(千切り) 2~3枚
オリーブ油(好みで) 適量
【作り方】
鍋に鶏手羽先とカブ、水、塩を加えて火にかけ、煮立ったらアクを取り、ふたをして弱火で45分ほど煮る。スープを800ml分とりわけ、鍋に残ったカブをフォークでつぶす。牛乳を加えて15分ほど弱火で煮る。カリカリに焼いたベーコンを加えてオリーブ油を回しかけ、ハーブを散らす。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。