初めての「譲渡会」
休日だというのに普段より早く目が覚めた、保護猫の「譲渡会」当日。
いよいよ私も運命の出会いを果たす日が!
……いやいや、必要以上の期待は禁物。
……あーでも止まらない、このワクワク感。
抱っこをさせてもらうことを想定し、猫毛が気にならない色のTシャツと、デニムパンツに着替え、香りがするものは極力つけず(猫は嗅覚がいいため香水など香りのきついものは苦手、と猫マニュアルに書いてあった)、頬がユルむのを抑えながらマンションを後にした。
譲渡会の会場、喫茶店「M」は商店街から1本入った静かな場所にあった。
~猫の譲渡会をやっています。中の猫が驚かないよう、ドアの開け閉めは静かにお願いします~
というドアに貼られた小さなポスター。高まる気持ちを抑えつつ静かにドアを開けると、店内に並べられたいくつものケージが目に入った。
ペットショップとは多少、様子が違うものの、参加猫たちから悲壮感や欠乏感は全く感じられなかった。
「うわぁ、かわいい子たちがたくさん」
思わずそう呟きながら、譲渡会のスタッフと思しき女性の方へ歩を進めると、足元を黒い影がすっと横切った。
美猫にくぎ付け
「ん?」
ふと、その黒い影を目で追うと、レジ横のカウンターに1匹の黒猫。
「あっ!?」
思わずその黒猫にくぎ付けになると、
「うちの看板猫のチカです」
とカウンターの中にいた女性が紹介してくれた。
「この美猫ちゃんは、もしかして、えーっと……」
「譲渡会の告知に使った写真の子です。彼女も保護猫出身なので、告知に一役買ってもらっているんです」
「あぁ、やっぱり、告知に出ていた美猫ちゃんですよね。そうだと思いました。……チカちゃん、そうかぁ、そうなのかぁ」
おぉ、チカちゃんよ、あなたと運命の出会いを果たすためにここに来たけど……あなたにはもう新しい家族が見つかっていたのね。はぁ、ちょっと残念。残念だけど……でも、譲渡会に足を運ぶきっかけをもらえただけでも感謝ですよ。
美猫なチカちゃんに後ろ髪を引かれつつも気持ちを切り替え、参加猫たちが待つケージをひとつひとつ見て回った。ペットショップでは生後2~3か月の子猫がほとんどだったが、譲渡会では子猫から大人猫、ハンディキャップを持った猫など、実に様々な猫たちが新しい家族との出会いを待っていた。
どの子もお行儀がよく、見た目もかわいい。保護主がつけた仮の名前を呼べば、振り向いてくれる子もいる。だけど……どうも一緒に暮らす未来図が思い浮かばない。
「気になる子はいました?」
声を掛けられ振り向くと、チカちゃんママ(黒猫チカちゃんの飼い主さん)が優しい笑顔を浮かべて立っていた。
譲渡型の保護猫カフェって?
「どの子もかわいいんですけど、どうも決め手がなくて……。というか、初の猫暮らしなので、ケージの外で眺めていても一緒に暮らすイメージが湧かなくて」
「初の猫暮らし! いいですね。そうしたら、譲渡型の保護猫カフェに行ってみたらどうですか? 猫たちが部屋の中で自由に動き回る様子を見られるので、一緒に暮らすイメージがつきやすいかも」。
「譲渡型の保護猫カフェ?」
「気に入った子がいたら里親になれる猫カフェです。チカとは、ここの近所にある保護猫カフェで出会ったんですけど、初めて会った時はもっと目が細く釣り上がっていて、尻尾も先細りの絵筆みたいで、見るからに神経質そうな感じだったんです。でも。何度か遊びに行って会うたびに、どんどん温和な表情に変化していって、ある日、彼女の方から私の膝に乗ってくれて、もうズキューンですよ」
「ズキューンですか!?」
「はい、ズキューンでした」。
人同士の関係と同じで、何度も顔を合わせるうちにお互いひかれ合うというのも、いいような気がした。もちろん、一目惚れ的な運命の出会いもいいけど、ひとまず初の猫暮らしのパートナーは、焦らずに探していこうと、心に決めた。
結局、この日は運命の出会いを果たせなかったけど、実際目の前で、「この子の里親になります!」というやり取りをいくつか見ることができ、とても幸せな気持ちを味わえた。
うん、満足、満足。
帰り際、チカちゃんママに譲渡型保護猫カフェの場所を聞くと、
「店長のアイさんという女性がとても猫に詳しいから、不安や疑問があったら色々聞いてみるといいですよ」
と教えてくれた。
よし、次の週末は保護猫譲渡カフェに行ってみよう。
(※この物語は、実在する飼い主募集型保護猫カフェをモデルにしたフィクションです)
猫クイズ!(四つの選択肢から選んでください)
Q.猫にとって最も毒性が強くて危険な花はどれ?
(1)ユリ
(2)ひまわり
(3)ゼラニウム
(4)サクラ
A.(1)ユリ
【解説】ユリは猫にとって、とても毒性が強く、一口かじっただけでも腎不全になり、亡くなることもある。花だけではなく茎や花粉にも毒性がある。(ねこ検定公式ガイドブックより)
(Photo by 保護猫写真家ねこたろう/協力 CAT’S INN TOKYO)
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