レモンの酸味が広がる キーマカレー 

水野仁輔のスパイスレッスン61

スパイスで作るカレーって、まるでカレイドスコープのようだなって思うんだ。カレイドスコープ、知ってる? 万華鏡のことだよ。筒の先端にきれいな小石かなんかが、じゃらじゃら入っててね。光を当てて鏡を通すと、無限の景色が楽しめる。素敵だよね。ふと、「この小石をスパイスに替えたら……」と思ったの。スパイスを使ってカレイドスコープを作るってことじゃないよ。スパイスを使ってカレーを作ることを、カレイドスコープにたとえるって話。ややこしいかな。

5種類のスパイスを取り出して、器にざっと並べる。ターメリック、レッドチリ、クミン、コリアンダーという、カレー作りに重要なトップ4ともいうべきスパイスと、五つ目に僕の好きなブラックペッパーを選んだラインアップだ。

それぞれのスパイスは、色が違うから美しい。これだけそろえば、誰にでもおいしいカレーができる。野菜を切り、き肉を準備して、キーマカレーにしようと思う。長時間煮込まなくても肉汁が出やすいから、うま味をたっぷり味わえる食べ応えのあるカレーになるはずだ。

鍋に、にんにく、しょうが、きつね色になるまで、玉ねぎを加えていためる。

さっきのスパイスで、カレイドスコープの話に戻ろうか。「小石に光を当てて鏡を通すと、無限の景色が楽しめる」と言ったよね。そこで言葉を置き換えてみる。「小石」を「スパイス」に、「光」を「火」に、「鏡」を「鍋」にするんだ。これでキミにも、きっとイメージできると思うよ。

スパイスに火を当てて鍋を通すと、無限の香りが楽しめる。

そう、スパイスで作るカレーっていうのは、そのくらいバラエティー豊かな香りや味わいを生み出せるものなんだ。だからここで改めて言っておこう。スパイスカレーは、カレイドスコープである!

きつね色になった玉ねぎにトマトを加えて水分を飛ばすと、スパイスを加える準備完了。一緒に塩と隠し味のゴマも加えてね。挽き肉を加えた後は無理して炒めない。ふたをして蒸し煮しちゃうんだ。これはちょっとラクをしたいときの方法。10分くらいったらしっかり肉の中まで火が通っているから、そこからふたを開けて、塊になったき肉を木べらでくずしながら、余計な水分を飛ばしていくように炒める。これがカンタン。

ただ、もっとちゃんと作りたいって人は、挽き肉だけ別のフライパンでしっかり炒めておくことをオススメする。肉汁も脂分もすべて煮込みの鍋に加えれば、こっちのほうがおいしくなる。豚挽き肉と鶏挽き肉という組み合わせは、マイブームでね。本当は何でもいいよ、好みの肉で。

先日、京都に行ったとき、街中を歩いていたら万華鏡ミュージアムっていうのを見つけてね。「そういえば好きだったなぁ」なんて思いながら入ってみたの。そうしたら、展示室にカレイドスコープじゃないものがあったんだ。

テレイドスコープ。知ってる? 小石に相当するオブジェクトが存在しない万華鏡。筒の先にガラスの球体がついていて、自分のいる場所から見える景色そのものがオブジェクトになる。僕は昔からこれが好きだった。名前がテレイドスコープということは、今回初めて知ったんだけどね。懐かしかったからひとつ買ってきたんだ。

実はこのキーマカレー、前回、ネパール風蒸し餃子ギョーザモモを作った時の材料と、全く同じなんだ。僕のカレイドスコープは、モモにもなるしカレーにもなる。しかもこのキーマカレーといったら香りがいいだけじゃなく、肉のうま味とレモンの酸味のバランスが素晴らしい。できあがったキーマカレーを食べながら、何げなくテレイドスコープを取り出したんだけど、あの瞬間をちょっと後悔しているよ。だって、その直前までは自分に陶酔していたのに急転直下。すっかり落ち込んじゃったんだ。

食べながら取り出したテレイドスコープ。よく考えてみたら、テレイドスコープにはスパイス(=小石)がないんだよ。スパイスがないのに景色を楽しめる。それで「あっ!」と気がついてしまったんだ。「スパイスを使ってカレーを作っているうちは、まだまだなんだな……」って。

僕のカレーは、所詮しょせん、カレイドスコープどまりなんだ。修業が足りない。スパイスがなくても、カレーを生み出せるようにならなければ。いつかスパイスに頼らずに、身の回りの景色をカレーに変えられる日が来るのだろうか。「カレーはテレイドスコープである!」と胸を張って言える日が……。

あれ? ねえ、聞いてる? 聞いてるの?

◆キーマカレー
【材料・4人分】
 植物油         大さじ3
 にんにく(みじん切り) 1片
 しょうが(みじん切り) 1片
 玉ねぎ(みじん切り)  1個(250g)
 トマト(みじん切り)  2個
 パウダースパイス
  ・ターメリック    小さじ1
  ・レッドチリ     小さじ1
  ・クミン       小さじ2
  ・コリアンダー    大さじ1
  ・ブラックペッパー  小さじ1
 白すりごま       小さじ2
 塩           小さじ1
 豚挽き肉        350g
 鶏もも挽き肉      150g
 水           200ml
 レモン汁        1/2個分
 香菜(ざく切り)    適量
【作り方】
鍋に油を入れて中火で熱し、にんにくとしょうがを炒め、玉ねぎを炒める。トマトを加えて水分が飛ぶまで炒め、パウダースパイスと塩、すりごまを加えてさっと炒める。挽き肉と水を加えて混ぜ合わせ、ふたをして弱火で10分ほど蒸し煮にする。ふたを開けてレモン汁と香菜を加え、ざっと混ぜ合わせる。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。