気分はタイムトラベラー! 広島県竹原市の美しく古い町並みへ

リフレッシュ! 極上旅

江戸時代の街並みが保存されている観光地は日本各地にありますが、この街ほど、生活の温もりを感じられるところはなかったと思います。訪れたのは、瀬戸内海に面した広島県竹原市。歩くほどに、現代と過去を行ったり来たりしているような、不思議な感覚にとらわれます。

時を超えたように楽しむ、ヒストリカルな街

切妻造りの本瓦ぶき屋根と、灰色漆喰しっくいの壁、飴色あめいろの格子、石畳の道……。竹原の町並み保存地区には、まるで映画のセットのような景観が続いています。一帯は、江戸時代から製塩業で富を蓄え、それを元に酒造業や海運業でさらに繁栄した場所。静かな住宅街となった今でも、当時の面影は濃厚に香り、穏やかな時を刻んでいます。

町並み保存地区といっても、古い建物が遺跡のように残されているわけではありません。ここは今でも地元の人たちが暮らす場所。散策すればするほど、町の息遣いを身近に感じます。

電柱や電線がなく、まるで映画のセットのように見える町並み保存地区

建造物の多くは江戸時代中期から明治時代に建てられたものですが、昭和レトロな看板もあれば、すれ違う小学生は今どきの話題で盛り上がっていて、なんだか、時を超えてしまった気分。この感覚、映画やアニメにもなった筒井康隆のSF小説「時をかける少女」のようだなあと思っていたら、実際に、1983年に公開された大林宣彦監督の映画「時をかける少女」で、この地がロケ地になっていました。

歩いていると、三差路が多いことに気づきます。これは、かつて馬車が使われていた頃、馬が暴走しても止められるように対策した名残なのだとか。

つい見入ってしまうのは、家々の出格子(窓から外へ張り出して作ってある格子)。家の間口の広さで税金が決まる時代、裕福な商家は間口が狭く奥行きが深い家を建て、人目につく出格子でひそかにおしゃれを楽しんだのだといいます。

一帯には、製塩業が盛んだった頃の豪商の家が何軒か残されています。なかでも、内観が一般公開されている「森川邸」は、趣向を凝らした造りに往時の栄華を忍ばせていました。かつて「浜旦那」と呼ばれた塩田経営者たちは、競うようにこんな豪華な邸宅を建てただけでなく、町並みの整備にも財を注ぎ込むことを惜しまなかったのだとか。浜旦那、なんて粋なんでしょう!

森川邸で中庭を眺めながら一息。着物だとさらに気分が盛り上がる

そんな浜旦那たちが来客時におもてなしの料理として提供していたのが、「魚飯ぎょはん」。焼いた白身魚の身や旬の具材をご飯の上に盛り付け、締めにだし汁をかけて食べる郷土料理です。塩田の廃止とともに見る機会はしだいに減っていきましたが、現在、市内にあるいくつかの店舗で復活しています。

白身魚やえび、しいたけ、錦糸卵などの具材をご飯の上に盛り付けて食べる魚飯。最後は白身魚の骨でとっただしにしょうゆやみりんなどで味付けしただし汁をかけていただく(竹楽にて)

町並みや食に歴史を感じる竹原で、さらに旅情を感じながら歩くのなら、女性限定の着物レンタルプラン(着付け付き2500円~。「竹楽」で5日前までに予約)を利用するのもよさそう。さまざまなデザインの着物がそろっています。

地酒と名バーテンダーのカクテルで街歩きのしめくくり

竹原にはおいしい地酒もあります。そのひとつが「竹鶴」。造り酒屋の竹鶴酒造は、ニッカウヰスキーの創業者、竹鶴政孝の生家としても知られています。この酒蔵が目指しているのは、自然の恵みである米や水の特性を生かした日本酒づくり。NHKの連続テレビ小説「マッサン」で全国に名を知られても、ブームに流されることなく、誠実に伝統の酒造りを続けています。

竹鶴酒造。直売店には、ほかでは買えないレアなお酒も

「龍勢」で知られる「藤井酒造」は、米と米こうじだけを使った純米酒ひとすじに造り続ける酒蔵。雰囲気ある「酒蔵交流館」を併設していて、試飲したり、お酒関連のアイテムを購入したりすることができます。私はここで見つけたオリジナルの酒かす石鹸せっけんをお土産に。とても使い心地がよく、愛用しています。

ひとしきり散策を楽しんだ夜、楽しみにしていたのは「バー・ロベルタ」。カウンターに立つ堀内信輔さんは、数々のカクテルコンペティションでグランプリを受賞している名バーテンダーです。

イメージを伝えると、ぴったりのカクテルを作ってもらえる

場所は、町並み保存地区から歩いて10分ほどの閑静な住宅街。扉を開けると、とたんに日常から非日常の世界へと誘われます。といっても、決してスノッブなムードはなく、モダンながらもリラックスできる雰囲気。おひとり様がくつろげる席もあります。

私は果汁などを入れた甘いお酒は苦手なのですが、なぜか堀内さんのカクテルは3杯とも、とてもおいしく飲むことができました。なにより、お酒を作る堀内さんの所作もキビキビとしていて、まるで茶道のように美しく、カウンター席で見入ってしまいました。これを機に、カクテルに目覚めてしまいそうです。

竹楽

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芹澤和美
芹澤和美(せりざわ・かずみ)
旅行ライター

 編集職を経て、1996年、中国・上海へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。主なフィールドは、98年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。

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