もう止まらない! スパイスでやみつきキャベツ

水野仁輔のスパイスレッスン57

 「ボンジョルノ! フランスはいかがでしたか?」

 友人から1通のメールが届いた。そう、僕はフランス・パリに行ってきたばかりである。たった1週間の滞在だったが、スパイスを巡る充実した時間を過ごして帰国した。

 ……のだが、ん!? あれ? 待てよ。ボンジョルノ? ボンジョルノっておかしくないか? イタリア語だよな。フランスの挨拶あいさつは、ボンジュールのはずなんだけど。さては彼女、何があったか知らないが、浮かれているな?

 まあ、いいけどね。実は僕だってずいぶんと浮かれているんだ。フランス滞在がキッカケで新しいスパイスの楽しみ方を発見してしまったから。

左上から時計回りに、ブラックペッパー、白すりごま、クミンシード

 気分よく小鉢を準備し、粗挽あらびきのブラックペッパーとクミンシード、白すりごまを「1:1:3」の割合で入れる。個別に香りをチェックして、よし、とばかりに小さめのボウルに移し替えて混ぜ合わせる。それぞれにいい香りをしていたスパイスたちが新たな香りを織りなす。「スパイスの掛け算」である。

 傍らにはキャベツが丸ごと。パリでは、マルシェに出かけて行って丸鶏を買い、さばいてカレーにした。食材を丸のまま手に入れて調理する喜びを改めて実感できたから、スーパーでキャベツを買うときも、半分に切ったものでなく、まるごとのものを選んだのだ。

 スパッと真ん中で豪快に切り、それから4等分に切り分ける。断面が美しい。あとは油と塩さえあればいい。スパイスがあるから調味料は全く必要ない。フライパンにごま油をちょっとたらし、キャベツを並べる。塩をふってふたをして強火にかけた。キッチンタイマーを5分に設定する。

 フランス旅の目的は、「ミックススパイスの研究」だった。パリにあるいくつかのスパイスショップにはバラエティー豊かなミックススパイスが売られている。ガラムマサラやケイジャンミックス、チリパウダーなどと言った、まあまあメジャーなものに限らず、独自の配合で組み合わされたいくつものボトルに出会える。ニューヨークでもロンドンでも、ムンバイでも手に入らないほどの数がある。興奮して70種類ほどを手に入れた。

 おそらくフランス人は香りに関して独自の感覚を持っているのだろう。そのエッセンスを吸収したい。レストランに食事に行くと、ちょっとしたものにミックススパイスがふりかけのようにかかっているのに気づく。いくつもの“スパイス料理”を食べたが、「スパイスの使い方は自由でいいんだよ」と諭されているような気分になった。だから僕もこうやって、自由な発想でスパイスを組み合わせてみようと思ったのだ。

 5分間、強火で蒸し焼きしている間に何度かふたをしたままフライパンを揺らす。ふたについた蒸気が水滴となって落ち、ジューッといい音をさせる。5分経過したらふたを開けてキャベツを裏返す。そこからはふたを開け強火のまま。タイマーを次は3分に設定。さっきのミックススパイスをざっとふりかけた。

 粒状のクミンシード、粗挽きのペッパー、すったごま。形状のそろわないスパイスたちをまとめてふりかけるのは、パリでよく出会うスタイルだった。彼らは生き生きとキャベツの上で香りを奏で始める。そうか、こんなにアバウトでいいんだ。今回のパリで僕が刺激を受けたポイントである。帰国後も僕の頭の中はミックススパイスのことでいっぱいだった。

 個性豊かで香りも形状も違ういくつかのスパイスを組み合わせ、シンプルな料理にパラパラとふりかけるだけで、素材の味わいが見違えるように引き立つ。調味料は要らない。このスパイスを使った創造性あふれるひと手間を僕は「クラフトスパイス」と呼んで研究を続けることにした。ボンジョルノ! クラフトスパイス! そう、僕だって、この発見で完全に浮かれているのである。

 キャベツは加熱することによって甘味が増幅する。そこにスパイスの刺激がいいアクセントとなる。食べ始めたら止まらない。キャベツ1個分くらいは一人で食べてしまえそうだ。そういえば、クラフトスパイスは英語だけれど、フランス語ではなんというのかな。メールをくれた彼女に聞いてみよう。きっとイタリア語で答えてくれるはずだ。

ミックススパイスでやみつきキャベツ
【材料・4人分】
 ごま油 小さじ2
 キャベツ(8等分に切る) 1個
 塩 少々
 ミックススパイス
 ・ブラックペッパー(粗挽き) 小さじ1
 ・クミンシード 小さじ1
 ・白すりごま 大さじ1
【作り方】
 フライパンにごま油をたらしてキャベツを敷き詰め、塩をふってふたをして強火で5分ほど蒸し焼きにする。ふたを開けてキャベツを裏返し、ミックススパイスをふりかけて強火のままふたを開けて3分ほど焼きつける。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。