バーベキュー味の謎 豚スペアリブにかぶりつく

水野仁輔のスパイスレッスン54

 世の中に「カレー味」というものは存在しない。スパイスには“香りづけ”という作用はあるけれど、“味つけ”という作用はないからだ。すなわち、カップラーメン・カレー味はラーメンの味にカレーの香りがのっかっているのであり、ポテトチップス・カレー味はポテトの味にカレーの香りがのっかっているのである。エヘン! 「カレー味」というとき、僕たちは、カレーソースの味を連想し、それをイメージしながらラーメンやポテトを食べているのだ。不思議な現象である。

 初夏に入り、暑い日が続いたから唐突にこんなおかしなことが頭の中をグルグルとし始めたのだろうか。気候がいいのだから週末になるとウズウズしてくる人もいるだろう。アウトドアでバーベキューがしたい! と。そんなときにはスパイスを使ってみんなで楽しめるような料理が欲しくなる。自宅を出る前にひと手間かけておいて、バッグにそっと忍ばせようじゃないか。

 準備したのは、骨付きの豚バラ肉である。薄めの骨に分厚い肉がついていて、いかにもみんなでかぶりついたら盛り上がりそうなアイテムだ。鍋に湯を沸かし、塩を振り入れて豚肉を豪快にゆでる。10分、20分程度でもいいし、余裕があれば30分ほど煮込んでおくといい。肉からはたっぷりと余計な脂が流れ出る。煮込みが終わったらゆで汁は躊躇ちゅうちょせずに捨ててしまおう。もし「もったいない!」と思うなら、いい方法がある。一度、ゆで汁を冷ますと表面に脂分が白く固形化する。それを取り除いて、残りをスープとして飲んだり、野菜を加えて煮たりするのもいい。

 肉とは別にボウルを準備して、調味料をあれこれ加えてよく混ぜ合わせておく。このときに、クローブを豪快に混ぜ合わせよう。もしあればスターアニスも。これらのスパイスは漢方薬のようなクセが強い香りがするから、肉の臭みを消して風味に奥深さをつけるのに貢献してくれる。調味料を肉に漬け込んだら、密閉袋にでも入れて、さあ、出発だ。

 バーベキュー会場につくまでに考える。カレー味以上に不思議な存在として、「バーベキュー味」というものがある。カレー味はまだ“カレー”の部分が料理名だから想像がつく。ところが、バーベキュー味はいけない。まったくもって許してはいけない表現だ。バーベキューという“行為”に味をつけているからだ。それがありなら、“サッカー味”とか“サーフィン味”とか“ジョギング味”とかだって良しとしなくてはならないじゃないか。

 僕がカバンに忍ばせたあの豚スペアリブ。豚肉は中まで火が入っているから、アウトドアで鉄板や網の上におき、強火で表面をこんがりさせればすぐに食べられる。オイスターソースが隠し味。クローブが隠し香り。このコンビネーションで、豚肉は奥深い味わいに変身し、何度でも食べたくなるような後を引く味になるに違いない。食べた人は必ず、喜んでくれるだろう。

 「これ、おいしい! なんていう味つけなの?」

 「バーベキュー味さ」

 答えながら僕は心の中で自分に突っ込むのだろう。バーベキュー味ってなんだよ、と。声に出して突っ込んでくる仲間がいるかもしれないから、答えを教えておこう。バーベキュー味とは、正確に説明すれば、「バーベキューで肉を焼いた後につけると、焼いた肉がおいしくなるソースの味」のことである。これでバーベキューの準備は万全だ。

    ◆豚スペアリブのバーベキュー味
    【材料】
     骨付き豚バラ肉 800g
     バーベキューソースの素
      ・オイスターソース    大さじ1強
      ・ウスターソース     大さじ1強
      ・はちみつ        大さじ1
      ・にんにく(すりおろし) 1/2片
      ・しょうが(すりおろし) 1片
      ・玉ねぎ(すりおろし)  小1/4個(50g)
      ・スターアニス(省略可) 1粒
      ・クローブ        10粒
     油 大さじ1
    【作り方】
     ソースの素をボウルに入れてよく混ぜ合わせておく。鍋にたっぷりの塩水を沸かし、豚肉を加えて煮立て、アクを取って30分ほど煮る。ざるにあげてソースの素を肉と合わせておく。フライパンに油を熱し、豚肉を加えて表面がこんがりするまで焼き、取り出して器に盛る。残ったソースの素をフライパンに加えて煮詰め、豚肉の上からまわしかける。

    水野仁輔
    水野仁輔(みずの・じんすけ)
    カレー&スパイス研究家

     1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。