ニラはスパイス? 野菜? ニラ玉の新たな可能性を探る

水野仁輔のスパイスレッスン53

 ニラはスパイスなのかもしれないと思ったのは、大学の時だった。

 渋谷にあるインド料理店でアルバイトをしていたころ、カレーの仕上げにニラを細かく刻んだものをトッピングしていることに気がついた。メニューのカレーだったか、まかないのカレーだったのかは覚えていない。とにかく「インドカレーにニラ!?」と驚いたのを思い出す。

 その後、ピーマンだったり、青ネギだったり、ししとうだったり、とにかく青い野菜をチョップしてトッピングするインドカレーをあちこちで目にした僕は、「なるほど、香りの強い野菜は使い方によってはスパイスになるんだな」と勝手に納得した。きっとインドでしか手に入らないフレッシュスパイス(ハーブ類)の代用品として、応用されたものだったんだろう。

 スパイスは、本来、主役の味わいを引き立てる脇役として活躍するべきものだ。だから、ニラをスパイスだと主張するのなら、あまり大きな顔をされては困る。

 ニラをたっぷり使う料理で人気なのは、ニラ玉。明らかにニラが堂々としている。卵の黄色とニラの緑色は、どちらかが主張しすぎることもなく仲の良いカップルのように寄り添っているのだ。この場合、「ニラはスパイスではなく野菜だ」と言ったほうがいいのだろうか。

 ニラがスパイスなのか野菜なのかは、ニラ玉を作ってみて判断することにしよう。

 適当なサイズに切ったニラを油でいため、ほどよくしんなりしてきたところで溶き卵を加え、大きくゆっくり混ぜ合わせる。菜箸をカチャカチャ忙しく動かしたりはしない。半熟加減がいい具合になったところでそのまま器へ。あーあ、もうできちゃった。食べてみる。適度な食感を残したニラは口の中に独特の風味を残し、まろやかで甘い卵とのコントラストが楽しい。

 おいしいとはいえ、あまりに簡単にできてしまうから、ちょっと不満が残り、“ニラ玉・ニュースクール”に挑戦することにした。最近、自分の中でブームが来ている“焦がし”を取り入れたニラ玉である。

 ニラは同じように切っておく。卵も同じように準備する。ニラを同じように炒める。ほどよくしんなりしてきたら、溶き卵も同じようにフライパンに注ぎ入れる。大きくフライパンをまわし、卵を鍋底全体に回したら、ここから新しい手法を取り入れる。

 しばらく強火のまま加熱し、卵のふちの辺りが焼けて固まってきたところで、ふたをして弱火にして蒸し焼きにするのだ。最初に作った“ニラ玉・オールドスクール”は、カップルがフライパンの中でダンスをゆっくりと踊っているような状態。この“ニラ玉・ニュースクール”は、カップルがフライパンの中で添い寝している状態である。

 ニラ玉を“仲の良いカップル”と表現してしまった以上、ここはこう例えるよりほかない……。

 肝心なのは、添い寝のままにさせること。決してぐっすりと眠らせてしまってはいけない。ふたりが眠りにつく前に「朝が来たよ」とばかりにふたを開けよう。

 「はい、起きてー」

 「ええ!? もう起きるの!?」

 カップルに文句を言われるかもしれないが、そこは鬼と化して……、っていったい僕は誰なんだ!? ま、いいや。とにかく、鍋底に張り付いた裏面はこんがりと焼け(部分的にほどよく焦げ)、見えている表面は半熟状態という瞬間を逃してはいけない。ふたりの気持ちに完全に火がつく前にガスコンロのつまみをひねるのだ。

 準備していた皿に盛り付ける。半分にたたんだ状態でね。このままだとお好み焼きのようなチヂミのような状態で、これをニラ玉だと認識する人は少ないだろう。お箸やフォーク、ナイフなどを使って、きれいな半月形のそれをクシャクシャと無造作に混ぜ合わせる。すると、こんがりとふんわりが混ざり合った、新たな味わいのニラ玉が現れるのだ。

 ニラの風味と卵の味に香ばしさが加わったニュースクールはオールドスクールとはまた別の味わいでおいしい。ふたつを並べて食べながら、改めて僕は思った。

 確かに香りはいいけれど、ニラはやっぱり野菜なのかもしれないな……。

◆ニラ玉・ニュースクール
【材料・2~3人分】
植物油 少々
ニラ(5センチ幅に切る) 1/2束(70g)
溶き卵 3個分
材料A
 ・日本酒  小さじ1強
 ・しょうゆ 小さじ1強
 ・塩    少々
【作り方】
 溶き卵に材料Aを混ぜ合わせておく。フライパンに油を熱し、ニラを加えてさっと強火で炒め、溶き卵を流し込み、ふたをして弱火で蒸し焼きにする。裏面がカリッとし、表面が半熟になったところで半月形にして器に盛り、フォークを使って好みの状態に崩す。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。