ひとつひとつを丁寧に スパイシーで滋味深い大人の三色丼

水野仁輔のスパイスレッスン50

 音楽は、「リズムとメロディーとハーモニー」でできている。

 難しいことはわからないけれど、とにかくそういうことらしい。物事を三つの要素で表現すると、なんとなく納得がいくから不思議だ。たとえば、カレーは「具とソースとスパイス」でできている。僕はそう言っている。この三つ目が肝心で、ここでそれが何ものかがハッキリするし、同時にセンスも問われるのだ。

 そんなことを考えたのは、「音楽の三要素」について、とあるクラブDJと語っているときだった。彼が言ったことが格好良かった。

 「リズムとメロディーとハーモニー!? いやいや、ハーモニーじゃないよ。音楽は、『リズムとメロディーと根性』でできてるんだよ」

 何かこう、ハッキリとした意思を感じる発言だった。

 そういえば、三要素で構成されるわかりやすい料理がある。その名の通り、三色丼である。三色丼が何でできているかを誰かに尋ねたら、二つは誰もが同じものを口にするだろう。り卵(黄色)と鶏そぼろ(茶色)だ。ところが三つ目の緑色で意見がわかれる。そして、センスも問われるのである。

 まずは、炒り卵を作る。ただ卵に塩を加えてフライパンでいためればできるのだけれど、三色丼らしい炒り卵にするなら、ポロポロとしたきめ細やかな食感に仕上げたい。鍋中の温度を上げすぎないよう、れ布巾を準備し、加熱しては火から離し、ずっとかき混ぜ続ける。4、5本の菜箸を一度につかんでかき混ぜるといい具合に炒りやすい。

 砂糖は使わないがみりんを少々。甘すぎない炒り卵には、さらに粗きのブラックペッパーを加えてオトナな風味を醸し出す。

 続いて、鶏そぼろを作る。こちらも甘すぎないキリリとした味わいに仕上げるために、しょうがのしぼり汁をたっぷりと加える。根気よく鍋中をかき混ぜ、炒めていくと生だった挽き肉に徐々に火が入り、やがて、肉の中の水分がにじみ出て煮るような状態になる。ここで良しとしてはいけない。さらに我慢して炒め続けると、水分が飛び、パラッとしたそぼろができあがる。淡い色をしていたはずの挽き肉もいつしか堂々とした茶色に変わっている。

 緑色を何にするかを考えていた日の夜、7~8人の男女で集まり、お酒を飲む席があった。僕は、「音楽の三要素」の話を例に出し、「リズムとメロディー」に続く三つ目の要素、つまりハーモニーの代わりを務めるものを何にしたら格好いいのかについて議論した。

 その場にいるみんなで「根性」を超える何かを考え、予想以上に盛り上がった。「リズムとメロディーとスニーカー」はどうか? だの、「リズムとメロディーとカタルシス」なんていいんじゃない? だの、「リズムとメロディーとタングステン」だと響きだけはいいね、だの……。その後も「オットセイ」やら「革ジャン」やら「レストラン」やら、おかしな言葉が出続ける。盛り上がる一方で僕は、三色丼の緑色はオーソドックスに絹さやで行こうと心に決めた。

 春に旬を迎える野菜には、爽やかな若葉色のものが多い。特に絹さやに限らず、グリーンピースやさやいんげん、スナップエンドウなど色々。さっと塩ゆでして食べやすいサイズに切る。今回は、グリーンピースを加えて食感と風味に深みを加えることにした。さらに、それだけにはとどまらず、ミントを採用。典型的な和食である三色丼にハーブの香りを加えることで、少しだけ意外性を持たせた構成にする。これが僕にとっては精いっぱいのセンスである。

 できあがった黄色と茶色、緑色を白いライスの上に盛り付ける。きれいに三色にわけるのもいいし、あらかじめざっと混ぜ合わせた上で無造作にライスに散らすのもいい。甘すぎず適度にスパイシーで滋味深い、オトナな三色丼ができあがった。ひとつひとつを丁寧に調理したせいか、満足のいく完成度だ。

 三色丼は、「炒り卵と鶏そぼろと絹さや」でできている。普通過ぎる結論に落ち着いたが、ブラックペッパー、しょうが、ミントとそれぞれに利かせたスパイスのおかげで、三色丼を超えた三色丼を味わえる。

 昨夜の飲み会で、後半に誰かが酔っぱらってこんなことを言った。

 「音楽は、『リズムとメロディーとエロ』でできているってのは、どお?」
 一瞬の沈黙を突き破って口を開いたのは、それまでずっと黙っていた女性だった。
 「エロ、いいと思います!」
 驚く一同を意に介さず、彼女は続けた。
 「だって、エロは生きることだから」

 音楽の定義は難しい。生きることの意義を考えるのも大変だ。それに比べたら、シンプルでおいしい三色丼は、なんと素晴らしい料理だろうか。

◆大人の三色丼
【材料2~3人分】
 黄色……炒り卵
  ・生卵  2個
  ・酒   小さじ1
  ・みりん 小さじ1
  ・塩   少々
  ・黒こしょう(粗挽き) 少々
 茶色……鶏そぼろ
  ・鶏挽き肉(モモ肉)  200g
  ・しょうが(しぼり汁) 小さじ2
  ・酒    大さじ1
  ・みりん  大さじ1
  ・しょうゆ 大さじ1
 緑色……春の豆
  ・絹さや     小25本
  ・グリーンピース  15本
  ・塩 適量
  ・水 適量
  ・ミント(みじん切り) 適量
【作り方】
 炒り卵を作る。鍋に材料をすべて加えてよく混ぜ合わせ、中火にかけてよく混ぜながら炒める。固まってきたら濡れ布巾の上に移して鍋底を冷やしながら混ぜ、再び火にかけて混ぜる。これを繰り返してぽろぽろにする。
 鶏そぼろを作る。鍋に材料をすべて加えて混ぜ合わせ、中火にかけてよく混ぜながら炒める。ポロポロになって色が深まるまで。
 春の豆を準備する。グリーンピースを2分、絹さやを1分ほど塩ゆでし、ざるにあげて粗熱を取り、絹さやを斜め切りしてグリーンピース、ミントと混ぜ合わせる。
 ライスを盛り、黄色、茶色、緑色を盛り付ける。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。