たくましく生きる古都「モスタル」の猫

いろいろな猫の生き方(52)

 アドリア海に面した街ドブロブニク(クロアチア)から出発する日帰り観光ツアーに、たくさんの猫が住み着いている世界遺産の街があるといううわさを聞きつけました。それが美しいボスニア・ヘルツェゴビナ(旧ユーゴ・スラビア)の古都「モスタル」。ドブロブニク旧市街のバスターミナルから小型のバスで国境を超え、いくつかの観光スポットを経由し5時間程で到着します。

 イスラム文化とヨーロッパ文化が融合するモスタル旧市街の中心には深緑色のネレトゥヴァ川が流れ、街のシンボルでもある「スタリ・モスト」というアーチ型の石橋がかかっています。とても美しく神秘的な景観です。そして何より、噂通り猫の街でした。

 旅番組などでたびたび紹介されるのは、橋の中央から下を流れる川に向かって人々が飛び込みをするシーン。地元の若者が観光客に披露する技ですが、この高さから飛び込むなんてすごい勇気です。しかし、冬だったので見ることはできませんでした。残念……。

 橋の周辺にはたくさんの土産物屋や、飲食店が立ち並んでいます。そして多くの猫たちはこの周辺で暮らしてます。びっしりお店が並ぶ通りを進むと、早速、私の目の前を横切る2匹の猫を確認しました。

 地元の芸術家が描いた絵や、ポストカードを売っているお店の前にも猫の姿。どうです。この景色、絵になってるでしょう。  それもそのはず、この旧市街の象徴的な石畳が独特の雰囲気を醸し出しているんです。丸型の石がびっしり敷き詰められています。この歩きにくさがまたいいんです。

 

 こんな観光客だらけの場所に猫がいるのは、土産物屋や飲食店からエサをもらっているから。お店をのぞくと丁度、エキゾチックなお土産の隣でごはんタイムでした。

 この街は、ネレトゥヴァ川を挟んで人種や宗教が異なります。橋を渡った先に見えるのはモスクの塔。川の東側はムスリム人、西側にクロアチア人が暮らしています。

 早速、橋を渡ってみると、3きょうだいとおぼしき白黒猫たちが勢いよく走って来ます。何なんでしょう、この歓迎ぶりは。うれしくなってきます。

 ひょいと塀の上にも乗ってくれると、背景には街のシンボルの橋が写りこみます。ありがとう、大サービスの猫たちです。でも、後で気づいたのですが、彼らの目的は単なるモデルではありませんでした。

 と、その前に橋を渡る前に立ち寄ったランチスポットを紹介。橋の直ぐ近くのレストラン「シャドルバーン」は見ての通り人も猫も集う人気店です。ガイドブックでもおなじみの店。

 店の敷地の外のテーブル席に猫たちが待機して、おすそ分けを待っています。今は、猫たちのいこいの場所ですがハイシーズンでは観光客で埋まってしまいそうですね。

 モスタルはドブロブニクに比べて、物価の安さが際立ちました。この地域の名物料理ケバブ由来の「チェヴァピ」はおいしい上に、ドブロブニクのランチの約半額でした。

 再び街を散策すると、観光地から徐々に地元民が住む地域になって行きます。帰りの時間が迫っているので、引き返すと、行きにすり寄ってきていた猫と再会しました。

 ハチ割れ猫が待っていたのは、ミニスーパーの入口。中から金髪の女性が出てくると擦りよって行きます。

 女性は買ってきたばかりのキャットフードの封を開け、ハチ割れ猫にふるまうようです。

 何とモスタルの猫たちは脈がありそうな人を見つけては、ごはんのおねだりアピールをしていたようです。お店の入り口でちゃんと買ってくるのを張りついて待っていたんですね。

 モスタルの猫はたくましい。けれどたくましいのは猫だけではありません。ここは1992〜93年のボスニア紛争で、大きな犠牲を出してしまった街ですが、現在は、そんな雰囲気を微塵みじんも感じさせません。逆に、銃撃痕のある建物の方が違和感を覚えます。

 それ程、平和を感じさせたのは、街の人々の猫へ対する優しい姿勢と街に漂う明るさ。川を挟んで争いがあったとしても、破壊された建物を再建し、未来に向かって動き出したからなんでしょうね。

 現在かかっている橋は93年に破壊された後、2004年に再建されたものです。平和のシンボルとしての役割も担っているんですね。猫を目的に訪れた街ですが、平和の大事さを教わったような気がします。おっと、帰りの時間が迫っています。わずか3時間の滞在でしたが、今度はツアーでなく、ゆっくりと訪れたい気持になりました。

南幅俊輔(みなみはば しゅんすけ)
デザイン事務所コイル代表。ソトネコ写真家&グラフィックデザイナー

猫の島「田代島」を訪れたのがきっかけで、「ソトネコたち」の生き方に興味を持ち、瀬戸内や九州の島で猫たちの写真を撮っている。ソトネコサイトの管理者。著書に「ソトネコJAPAN」「ねこ柄まにあ」「のんびり猫旅」「ねこ暦 七十二候」「サーバルパーク」ワル猫だもの」「どやにゃん」「ワル子猫カレンダー2019」「「辛口こねこカレンダー2019」ほか。

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