桜もち 愛され続ける ゆかしい香り

瀬戸理恵子のおやつ便り

 風の冷たさが和らぎ、日差しにうららかな暖かさが感じられるようになってくると、まもなく春。待ち焦がれる桜の季節ももう、すぐそこです。

 桜の季節とくれば、はずせないのが、江戸時代から続く桜の名所、隅田川のほとりに店を構える向島「長命寺 桜もち」の桜もちです。創業者の山本新六が1717年(享保2年)、土手の桜の葉をたるで塩漬けにして、これを使った「桜もち」を考案して売り出したのが始まりとか。そのゆかしい風味は、今も人々をきつけてやみません。

 現在は西伊豆・松崎町で育てられたオオシマザクラの葉が使われていて、その香りのよさは格別。2~3枚のやわらかな葉が、白くてつややかな薄焼きのおもちをしっかり包みこんでいます。鼻を近づけると、はぁ、なんて上品でいい香り。心の奥までやされるようです。

 お餅は小麦粉を水で溶き、銅板で色づかないように気を配りながら一枚一枚、ていねいに手焼きされたもの。モチモチした食感がとっても魅力的です。間には、練り切りのように堅めに炊き上げられた、風味豊かな北海道産小豆のこしあんがはさまれていて、弾力あるおとバランスよくマッチ。桜の葉から移った塩気もほどよく、餡の甘みを引き締めます。

 「桜の葉の香りも餅にしっかり移っていますので、葉をはずしてお召し上がりいただくのがおすすめです。でも、葉を一緒に召し上がるのもお好みでよろしいかと」と、女将おかみの山本祐子さんは話します。

◇     ◇     ◇

 初代から11代目で現当主の山本幸生さんまで、手掛けるのはこの「桜もち」一品のみ。「昔と変わらず、添加物を一切加えていないので、時間がたつとお餅が硬くなってしまいます。ですから、できるだけ時間を置かずに食べてほしい」と、祐子さん。伝統を守る老舗の心意気とこだわりが桜の葉の香りとともにしみ渡る、愛し続けたい江戸の美味です。

 

桜もち(200円・税込み)
店舗 長命寺 桜もち
東京都墨田区向島5-1-14
03-3622-3266
8:30~18:00
月曜休
※予約は電話のみ。3~4月の販売は、予約優先
※店内での提供(イートイン)は、行っていない期間もあるので要確認

瀬戸 理恵子(せと・りえこ)
フードエディター・ライター

 瀬戸 理恵子(せと・りえこ) フードエディター。 1971年東京都生まれ。銀行勤務を経て2000年にパリへ製菓留学し、エコール・リッツ・エスコフィエ、ル・コルドン・ブルー パリで菓子ディプロムを取得。ピエール・エルメ氏のもと研修を重ねる。2001年帰国し、月刊誌「料理王国」、「料理通信」の編集部を経て、2009年独立。お菓子を中心にフリーランスのフードエディター・ライターとして活動中。監修・共著に「東京手みやげ 逸品お菓子」(河出書房新社)など。このほか、「『オーボンヴュータン』河田勝彦の郷土菓子」(誠文堂新光社)など、パティシエの書籍製作も手がける。

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