私には、お菓子屋さんでときどき出会えると胸がキュンとしてしまう、愛しの“カレ”がいます。“カレ”の名は、「スイス」。頭に帽子をかぶり、口ひげを生やしたお顔が凜々しくてチャーミングな、フランス・ヴァランスの伝統菓子です。
フランスのお菓子なのに、なぜスイスなのかといえば、スイスの衛兵さんの姿をかたどってつくられたお菓子だから。かつて、ナポレオンによってローマ教皇がヴァランスの町に幽閉され、その教皇が亡くなるまで護衛に当たっていたのが彼らだったそうなのです。
表情や服のデザインはお店によってさまざまで、キュートでほのぼのとした衛兵さんもいれば、勇猛でいかめしい衛兵さんも。同じお店のなかでも一人一人微妙に表情が違っていて、見比べるのが楽しくてたまりません。
なかでもお気に入りなのが、南浦和にあるパティスリー「ロタンティック」の「スイス」! レーズンのつぶらな瞳が清々しくて、甘すぎずゴツすぎず、バランスの取れた容姿と、立体感があって艶やかな装いに心惹かれます。そしてパクッと齧ってみれば、じっくり焼き上げられた厚みのあるサブレ生地がザクッと割れて、中はややしっとり、ホロリ。噛むうちにオレンンジとレモンのさわやかな香りが広がって、粉の旨みと混じり合い、素朴なおいしさに笑みがこぼれます。
◇ ◇ ◇
ポイントは、「クッキーよりも重たくて分厚い生地なので、粉っぽさが残らないようしっかり焼くこと」と、オーナーシェフ・パティシエの関本祐二さん。「ハレの日のお菓子だけでなく、なんてことはないシンプルなお菓子もおいしくつくる」を心がけ、一瞬一瞬、真摯に向き合うひたむきさが、その味わいにしっかり溶け込んでいるのを感じます。
スイス(540円・税込み)
店舗 ロタンティック
埼玉県さいたま市南区文蔵2-29-19 KSマンション文蔵1F
048-839-8227
10:00~20:00
木曜休
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