1年のはじめに 新・おうちカレーを発明

水野仁輔のスパイスレッスン44

 新しい日本の家カレーを発明してしまった。

 平成も終わろうとして、新年が始まったばかりというタイミングでなかなか縁起のいいことだ。材料は肉に玉ねぎ、にんじん、じゃがいも。カレールウは使わずカレー粉を使う。ここまでなら昔の日本のカレーと変わらない。ここから先が違う。ココナツミルクを注いで煮るのである。パパッと手際よく作れば30分もかからない。「おせちに飽きたからカレーでも食べたいが、時間がかかりそうで面倒だ」なんて人にはピッタリ。

 どうだ!と友人に披露してみると、痛い所を突かれてしまった。

 「これって、タイのイエローカレーだよね?」

 「え? あ、いや、そのぉ、タイカレーみたいにペーストは使わないし……」

 「タイでもペーストを使わないタイプもあるみたいよ」

 「ほら、言わなかったけれど、隠し味にしょう油が入ってたりなんかして……」

 「ナンプラ―の代わりでしょう?」

 「カレー粉がさ、日本の、オリジナルの……」

 「だって、そこに置いてあるカレー粉のボトル、メイド・イン・タイランドって書いてあったよ」

慣れないウソはつかないほうがいい。

 「男のウソはすぐにバレる」とその昔、女友達から聞いたことがある。そういえば、去年は、別の角度から似たような指摘を受けたことがある。

 「水野さん、気をつけてくださいね。女性はほんっとーに上手にウソをつきますから」

 なんの話の流れか忘れたが、そう言った彼女の顔は極めて真剣だった。僕は、あの瞬間だけは彼女が本当のことを言っているのか、それこそ“上手なウソ”をついているのかわからなくなり、頭が混乱した。

 まあ、常日頃から、本当のことなんてどこにもないと思って生きている僕にとっては、それがホントなのかウソなのかはあまり気にしない。ついでに言えば、僕はすぐバレる(バラす)ウソをつくのが結構好きだ。

 このカレーだって、タイカレーインスパイア系のような紹介をしているが、実際には、ラオスで習ったカレーのアレンジ版である。

 メコン川沿いにあるレストランの調理場で女性のシェフからイエローカレーの作り方を習った。油でにんにくやしょうが、肉、玉ねぎ、にんじん、じゃがいもを加えて炒める。

 この時点で、「日本の家カレーみたいだな」と僕は思った。が、そこから先が違った。カレー粉をパパッと振り入れてすぐに水を加え、ポコポコと煮立ったらココナツミルクを。グツグツ煮ている間に塩、砂糖、化学調味料、ナンパー(ラオス版ナンプラー)を加えて味つけをする。10分ちょっとのクッキングだった。

 このスピード感でカレーができるなら、忙しい朝にも、ダラダラしたい昼にも、疲れている夜にもピッタリじゃないか。だから日本版の食材でアレンジしてみようと思ったのだ。

 ラオスでは、いろんなレストランで同じ質問をした。

 「タイカレーとラオスカレーは何が違うんですか?」

 写真を見たり食べたりした感じではあまり違いはわからない。くだんの女性シェフは、「そんなの知らないわ」とあっけらかんとした調子で派手に笑った。一方、男性は対応が違った。みんな真面目に答えてくれる。

 「タイのカレーよりラオスのカレーのほうがハーブをたくさん使っている……、かな」

 「ラオスのカレーは、タイのカレーほど味が濃くない……、かな」

 誰もが答えてくれた後に、どことなく恥ずかしそうに控えめに笑う。要するに自信がないのである。自信はないが、「知らない」とは言いたくないのだ。かといってウソを教えるつもりもないのだろう。男のウソはわかりやすい。

 女は上手にウソをつく。友人の言葉をラオスで反芻はんすうしてみる。あ!あの女性シェフ、本当は知っているんじゃないだろうか。タイカレーとラオスカレーの決定的な違いを。「そんなの知らないわ」と言ったのは、「あなたには教えたくないわ」だったのかもしれない。

 もしそうだとしたら、あのシェフのことが好きになってしまいそうだ。

◆ラオス風ココナツカレー
【材料・23人分】
 植物油 大さじ2
 にんにく(粗みじん切り) 1片
 しょうが(千切り) 1片
 玉ねぎ(くし形切り) 小1個(100g)
 鶏手羽中 12本(250g)
 カレー粉 大さじ2弱
 塩 小さじ1弱
 にんじん 小1/2本(60g)
 じゃがいも 1個(60g)
 水 100ml
 ココナッツミルク 200ml
 しょう油 少々
 ミント(あれば) 適宜(5gほど)
【作り方】
 鍋に油を熱し、にんにくとしょうがを炒め、鶏肉を加えてさっと炒め、カレー粉をまぶす。にんじん、たまねぎ、じゃがいもを加えて混ぜ合わせ、水を注いで煮立て、ココナツミルクを加え、塩としょう油を混ぜ合わせてふたをして10~15分ほど煮込む。あればミントを混ぜ合わせる。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。