きみしぐれ 余韻で心まで温かく

瀬戸理恵子のおやつ便り

 秋が深まり、温かい緑茶がおいしい季節になってくると食べたくなってしまうのが、大正創業の御菓子司「東海」の「きみしぐれ」です。人形町の路地を抜けてお店を訪れてみれば、変わらない趣あるたたずまいと、変わらない笑顔で迎えてくれるご主人と女将おかみさん、そして、変わることなく飾らず、やさしい表情を浮かべるお菓子の数々。その真ん中に、まるで日だまりのようなほっこり、淡いオレンジ色のきみしぐれを、今日も見つけました。
 こだわりの奥久慈卵の黄身を混ぜて蒸し上げた手亡てぼう(白インゲン)豆の白あんは、自然な割れ目が美しく、ほろりとやわらかで手に持ってお皿に移すのが怖いほど。そっと口に入れれば、きめ細かいあんがしっとり、ふわっとほどけて、おだやかな甘さと卵のまろやかさが広がります。そして、余韻だけを残してさらりと消えていく、そのはかなさといったら! どこまでもやさしい食感と味わいに、舌で喜びを感じるのはもちろん、心までほわっと温かくなって、なんだかちょっぴり泣きたいような、うれしい気持ちになってしまうのです。

     ◇     ◇     ◇

 「おいしさの秘訣は、たっぷり卵黄を使うこと。白餡に加えてしっかり練るのだけど、最後は手で練らないとふっくらいかない」とおだやかに語る、ご主人の田所ひろしさん。その横で「腕で覚えるのよね。やっぱり年輪」と明るく笑う、女将の照子さん。手づくりを貫き続けるご主人の和菓子職人としての心意気と、ご夫婦二人の温かい気持ちが溶け込んだ、やさしさあふれるお菓子です。

 

きみしぐれ
  200円(税込み)
店舗 東海 
東京都中央区日本橋人形町1-16-12
03-3666-7063
9:00~19:00
日曜、祝日休

瀬戸 理恵子(せと・りえこ)
フードエディター・ライター

 瀬戸 理恵子(せと・りえこ) フードエディター。 1971年東京都生まれ。銀行勤務を経て2000年にパリへ製菓留学し、エコール・リッツ・エスコフィエ、ル・コルドン・ブルー パリで菓子ディプロムを取得。ピエール・エルメ氏のもと研修を重ねる。2001年帰国し、月刊誌「料理王国」、「料理通信」の編集部を経て、2009年独立。お菓子を中心にフリーランスのフードエディター・ライターとして活動中。監修・共著に「東京手みやげ 逸品お菓子」(河出書房新社)など。このほか、「『オーボンヴュータン』河田勝彦の郷土菓子」(誠文堂新光社)など、パティシエの書籍製作も手がける。

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