大人の自由研究 美味しい焼きそばの作り方

水野仁輔のスパイスレッスン35

 大村先輩は、剣道がめっぽう強かった。中学時代の部活でひとつ年上だった先輩である。強いだけでなく、かっこよくて頼りがいがあって面白いから、みんなの憧れだった。夏休みに仲間と先輩の家に遊びに行くと、到着するなり指令が飛んできた。

 「袋ラーメンを買ってこい」

 コンビニで先輩たちの分と僕たちの分を買って戻ると、先輩たちの分は湯を沸かしてラーメンにし、僕たちの分は特別なおやつになった。袋のまま外からバリバリと両手で握って乾燥麺を砕く。それから袋を開けて味つけ用の粉末を取り出し、振りかけて袋の口を右手で閉じ、カシャカシャカシャと振るのだ。

 「これがうまいんだよな」

 言われるがままに食べると超うまい。大村先輩はなんて天才なんだ! と僕たち後輩は思った。ある食品は、推奨されている通りに調理するに限らないことをあのとき僕は学んだのである。同時に創造とは既成概念を覆す行為から生まれるのかもしれない、ということも考えた。ひと夏の思い出である。

袋のままもんでみたヤキソバ

 暑かった夏休みが終わろうとしている。小学校時代、休み明けには自由研究を提出すると決まっていた。あの頃が懐かしい。大人になって自由研究をしなくなるのはもったいないことだ。だから僕は、この夏のうちに滑り込みで「大人の自由研究」をやってみようと思った。

 テーマは、“袋ラーメン”ならぬ“袋ヤキソバ”に決めた。あれを上手に作る方法を見つけたい。それこそ袋に書かれた通りの作り方では、どうにも麺がベチャベチャするし、味はしつこいし、満足できる仕上がりにならない。もっといい方法があるはずだ。

 ヤキソバ(焼きそば)という以上、焼いたソバをおいしく食べたい。あの袋に入った蒸し麺の処理について、過去の経験を洗い出して、5つの手法を導き出した。

 1.袋のままもむ
 2.水で洗う
 3.湯通しする
 4.レンジで加熱する
 5.表面を焼く

 ひとつずつやってみることに。

 袋のままもむのは、昔からやっている手法だ。こうしておくことで、麺がほぐれ、焼きやすくなる。常温に戻しておくのも大事だ。仕上がりは悪くないがいつも作るのと代わり映えしない。

水で洗ってみたヤキソバ

 水で洗うのは、焼く前によりほぐしておこうという魂胆から。ボウルに入れて流水の中に両手を突っ込み、洗う。適度に表面に水分をまとった麺は焼くときに同時に蒸す感じになるから、中まで火が通ってモチモチした食感が出来上がる。

湯通ししたヤキソバ

 湯通しをしたのは、麺をコーティングしている油がおいしくないんじゃないか、と気になったからだ。湯通しする時間は長いと麺が伸びるから慎重になるが、この時点で中にまである程度火が通るため、さっと焼きつけるだけでスッキリおいしく仕上がった。

 レンジを使うのは、気が進まない。なんというか自分の技術と関係ないところでおいしくしているような後ろめたさがつきまとう。とはいえ、ラップをしてレンジで加熱した麺は、ほぐれやすく食べやすくなっているから、悪い方法じゃなさそうだ。

 麺をかたまりのまま両面、フライパンで焼きつけるのは、ちょっとだけ興奮するプロセスだった。加水したりもしないから、「ああ、僕は今、ソバを“焼いている”んだなぁ」という感慨がある。表面にランダムに焼き色がつく感じも気に入った。適度なムラがあったほうが味わい深くなることを実感した。

 目の前に試食をした5種類のヤキソバが並ぶ。まあ、正直いえば、どれもそれぞれおいしいし、圧倒的な差が出ているわけではない。検討の結果、2番と5番を折衷することに。

 さっと短めに湯通ししてフライパンで表面を焼きつける。そこにしょうゆを注いでさっといため合わせる方法だ。具はひき肉とねぎを塩炒めしたシンプルなもの。ボウルで混ぜ合わせ、器に盛って仕上げの香りを。

 四川の青山椒さんしょうと黒胡椒こしょうの粗びきを混ぜ合わせたもので、容赦なく振りかけた。ごま油の香りとうま味、しょうゆの香ばしい風味、胡椒の深い辛みと山椒のさわやかなしびれ。何もかもが口の中で混ざり合う。添付されている粉末ソースは使わない。決して味は濃くないがバランスが取れた品のいいヤキソバができあがった。

黒胡椒(左)と山椒

 ヤキソバの蒸し麺を最もおいしく調理する方法として、この結論があっているのかどうかは知らない。少なくとも僕の好みであることは確かだ。そして、もっと大事なことは他にあることを知った。麺と具は別々で調理してから最後に合わせるのがいい、ということだ。形もサイズも火の通り具合も違う肉と野菜と麺を同時にフライパンでガチャガチャやっても僕が理想とする姿にはたどり着けない。

 麺は1人前ずつやるのが一番おいしい。あとで具と合わせるスタイルだから、それほど手間もかからない。 これが僕にとって夏の終わりを飾る「大人の自由研究」となった。もしくだんの大村先輩にこの結果を報告したら、なんと言われるだろうか。

 「そんなもん、粉末いれてカシャカシャやりゃいいんだよ」

 はい、その通りです。研究報告はやめておこう。

◆ぴりっとネギ焼きそば
【材料・1人前】
 焼きそば用の麺(蒸し麺) 1袋
 合いびき肉 80g
 青ネギ(5ミリ幅に切る) 5本
 塩 少々
 薄口しょうゆ 大さじ1
 ごま油 小さじ1
 黒胡椒 適量
 青山椒(四川) 適量
【作り方】
 フライパンを熱し、ひき肉を加えて塩を振り、火が通るまで炒め、青ネギを加えて炒め合わせる(具が完成)。麺を10秒ほど湯通しして水気を切り、ごま油を熱したフライパンで両面を焼く。適度に色づいたらしょうゆを加えてほぐしながら数秒炒める。具と混ぜ合わせて器に盛る。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。