にんにく味噌が隠し味のハンバーグ

水野仁輔のスパイスレッスン31

 「6月後半に収穫しますが、来ませんか?」

 にんにく農家の種子くんから連絡があったのは、春先のことだった。

 「行く行く!」

 待ってました、とばかりに僕は「行く」を2度繰り返して返事をし、青森県の田子町たっこまちへ出かけて行った。この時期に2週間ほどで1年分のにんにくを一気に収穫するそうで、僕が訪れたときには畑の片隅、ほんの一部だけをそのまま残してくれていた。

 収穫といっても単純で、畑から真っぐ天に向かって伸びているにんにくの茎を持ち、上に引っこ抜くだけである。黒土がどっさりついた状態で土の中から見たことのある姿が現れた。

 収穫後、どんな料理に合うのかをふたりで議論し始めたが、議論にならない。どんな料理とも相性がいいし、どんな料理も加えればおいしくなってしまうからだ。青森の地元の人たちは、「にんにく味噌みそ」を作ることが多いという。すりおろしたにんにくを味噌と混ぜるだけ。これをいろんなものに塗って食べるそうだ。

 そういえば、僕が幼いころは焼きなす(正確にはなす炒め)をにんにく醤油じょうゆでよく食べたっけ。にんにくと味噌とか、にんにくと醤油っていうのはゴールデンコンビなんだろう。

 ちなみに、にんにくの栄養成分は低温で加熱することによって抽出されるらしく、生のすりおろしを食べてもうまいのだけれど、世間で言われているほどの健康効果があるかはわからないという。

すりおろしたにんにくと味噌

 よし、にんにく味噌を加熱調理に使ってみよう。白羽の矢を立てたのはハンバーグだった。誰もがよく知っているこの料理がどんなふうに生まれ変わるのか、試してみたいと思ったのだ。ひとつだけ、合わせるスパイスを選んだ。クミンである。以前、種子くんからもらったガーリックパウダーにガラムマサラを混ぜて鶏の唐揚げを作ったことがあったので、今回はクミンパウダーを使ってみる。

 き肉と一緒に混ぜてこねればいいのだけれど、焼く前に加熱したい。みじん切りの玉ねぎを炒めるときに加えることにした。細かくみじん切りした玉ねぎを油で炒める。通常はしんなりすればOKだが、イタチ色からキツネ色程度まで炒めるとさらにうまくなる。やり方は簡単で、強火で放置するように熱を加え、焦げそうになる手前で大さじ23杯の水を加え、フライパンをゆすって水分を蒸発させるのだ。これを繰り返すと、色はどんどん深まっていく。ただ、慣れないと加減が難しいかもしれない。

 途中、にんにくを加えてさらに炒め、クミンパウダーを混ぜ合わせる。なんだかスパイスカレーを作っているような心境だ。このままトマトと挽き肉を入れて煮れば、キーマカレーになってしまう。茶色いクミンパウダーが混ざると、キツネ色だった玉ねぎはタヌキ色に変化した。粗熱を取って味噌と一緒に挽き肉に加える。あとは通常の作り方と何も変わらない。

 出来上がったハンバーグを食べると、いつもと違ったおいしさが待っていた。香ばしい風味が増強されている。何も言われなければ、そこにクミンとにんにく、味噌がいることは悟られないだろう。隠れて実力を発揮する。スパイスや調味料というものは、そうであるべきだと実感できる味わい。田子の名物にしてほしいと思った。

 「にんにくが土の中にできるって知ってましたか?」

 種子くんのお母さんに聞かれたけれど、さすがにそれは知っていた。

 茎の上のほうから根っこに向かって皮をはいでいくと、黒土がはがれて生まれ変わるように真っ白なにんにくが現れた。小さな専用ナイフで根を切り、茎を切り落とすと八百屋やスーパーに並んでいる姿に出会うことができる。ところがとれたてのにんにくが出荷されるケースは少ない。

 「ここから1か月ほど乾燥させるんです」

 乾燥保存用の倉庫を見せてもらったら、かごに入った無数のにんにくがいる。しっとりとした外側の皮から水分が抜け、からりとさせることで風味が強まる。

 「一般的にはこの状態を“生のにんにく”って言うけれど、これって生なのかな?」

 「僕らは“乾燥にんにく”って呼びますけどね」

 皮は乾燥させているけれど、中身は生のにんにく、ということになる。不思議な食材である。秋に植え夏前に収穫するにんにくは、雨にも負けず、風にも負けず、雪にも冬の寒さにも負けず、成長する。いくつもの見えない手間が加えられて初めて日の目を見る。「そういうものにわたしはなりたい」と思った。

◆にんにく味噌入りハンバーグ
【材料・4人分】
牛挽き肉 600g
植物油 少々
玉ねぎ(細かいみじん切り) 1/2個(100g)
にんにく(すりおろし) 4片(40g)
クミンパウダー 小さじ2
味噌 大さじ2
パン粉 1カップ
卵 1個
塩 小さじ1
〈ソース〉
マヨネーズ 大さじ2
ケチャップ 大さじ2
【作り方】
 油を熱し、玉ねぎをさっと炒め、しんなりしてきたらにんにくを加えて炒め合わせ、青臭い香りが飛んだらクミンパウダーを加えて混ぜ合わせ、火を止めて粗熱を取っておく。その他の材料と一緒にボウルに入れてよく混ぜ合わせ、4等分にして空気を抜いて成形する。フライパンを中火で熱し、ハンバーグを入れて焼き、こんがり焼き色がついたら裏返す。弱火にしてふたをして10分ほど蒸し焼きにする。ハンバーグを盛り付け、空いたフライパンにマヨネーズとケチャップを加えて混ぜ合わせ、ソースにする。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。