焼き魚とハーブが香ばしいポテトサラダ

水野仁輔のスパイスレッスン

 つい最近、大のおとなが5人ほど寄ってたかってスパイスのブレンドに精を出した。10種類のスパイスをボトルに入れて準備し、ひとつひとつの香りをかぎながら気に入ったスパイスを決める。その中から自由に4種類を選んで同量ずつケースに加え、ふたをして、よく振ってから香りをチェックする。

 それぞれのミックススパイスができあがったら、お互いに香りを比べ、あーでもない、こーでもないと議論する。それから、ひとつずつを順に回し、それをどう表現したらいいか、アイデアを出し合い、どんな料理にするのがいいかを想像する。

 10種類ほどミックスしたものの一つに、意見の一致したものがあった。

 「これはジャガイモを使った料理に合いそうだね」
 「そうそう、サブジとかサモサとかさ」

 サブジはいため物、サモサは揚げ物。どちらも素朴で愛されるインド料理である。そういえば、素朴で愛される日本のジャガイモ料理ってなんだろう? あるじゃないか。ポテトサラダってのが。

 ジャガイモに合うと盛り上がったミックススパイスは、ターメリック、パプリカがベースとなっていた。ここに新しい香りを追加して、おいしいポテトサラダを考えてみる。

 主役はポテトだから、玉ねぎやにんじんやきゅうりは使わずに、ジャガイモをストレートに味わいたい。パプリカが合うと感じた理由は香ばしさにある。あの感じを別のもので出せないか。

 思いついたのは、焼き魚である。ツナ缶を加えたポテサラが居酒屋メニューにあったりするから魚の身は相性がいい。焼いて香ばしさが際立った魚を、ふかっとした甘いジャガイモに合わせよう。うん、いい感じ。香ばしさとは対照的なフレッシュな香りも加えたい。ハーブがいい。どっさりと混ぜ合わせたら、風味のバランスが取れそうだ。

ディル(左)とセルフィーユ

 材料をスーパーへ買い出しに行く前にふとキッチンを確認すると、ジャガイモがどっさりある。冷蔵庫をのぞいたら、朝、焼こうと思って忘れていたあじの干物があった。そうか、ジャガイモや焼き魚がそろっているケースは割とあるのかもしれない。それなら買いに行くのはハーブだけでいいのだ。

 ジャガイモをでるときは湯でなく水から火にかけるのがうまい。たっぷり塩を加えて沸騰したら中火にし、コトコトさせながら15分ほど茹でる。串がすっと通る状態まで茹でたら火を止め、そのままさらに15分ほど湯の中で放置する。こうすると不思議なことにフカフカ感が増すのだ。

パプリカ(左)とターメリック(右)

 魚を焼いてハーブをみじん切りにする。マヨネーズにヨーグルトを加えてソースにしたのは、ジャガイモとの絡みをよりよくするためだ。レモン汁を絞って加えてもいいけれど、手元にないから、ま、オリーブ油だけで。

 それぞれのアイテムがそろったら、あとは全体を混ぜるだけだ。素材がシンプルなだけあって、ダイレクトにジャガイモの風味を楽しめる味わいに仕上がった。

 たとえば僕はこんなふうに新しい料理のレシピを開発している。そして、おいしい一品ができあがると、それをバリエーション展開したくなる。このポテトサラダに欠かせない要素は、「A.ジャガイモ」と「B.焼き魚」と「C.ハーブ」の三つである。これらをアレンジしていけばいい。

 たとえば、ジャガイモは、「A-1.男爵」と「A-2.メークイーン」と「A-3.カボチャ」。カボチャを使ったらポテサラでなく、カボチャサラダになってしまうが、まあ、気にしない。甘味があってうまいのだから。焼き魚は、「B-1.アジ」と「B-2.さけ」と「B-3.ホッケ」。ハーブは、「C-1.ディル」と「C-2.ミント」と「C-3.セルフィーユ」。要素を洗い出したら方程式ができあがる。

 「A-1,A-2,A-3」×「B-1,B-2,B-3」×「C-1,C-2,C-3」=おいしいポテトサラダ

 組み合わせのバリエーションは3の3乗。これをもとに好みのアイテムを組み合わせて作れば、あっという間に27通りのポテトサラダが開発できてしまうのだ。おー、すごい、すごい!僕は天才なのかもしれない。自画自賛したくなる。

 喜んでいたら、冒頭のブレンド遊びを楽しんだメンバーの一人からメッセージが入った。

 「スパイスのブレンド、210通りあるらしいんだよね」
 「え? なんのこと?」
 「いや、だからね、10種類のスパイスからランダムに4種類を選んだときの組み合わせが210通りあるんだって」
 「そんなに!? どうやって計算したの?」
 「うちの息子が小学校6年生で受験勉強をしていてね、ふと尋ねてみたの。そしたら、ものの10秒くらいで答えが返ってきた……」
 「210通りか、気が遠くなるな」
 「210通りだよ、夢が膨らむね」

 香りのバリエーションは果てしない。天才の自信はあっという間に揺らいでしまった。

◆オレンジ色とレモン色のポテトサラダ
【材料・2~3人前】
ジャガイモ(男爵) 中6個(500g)(半量ずつ使う)
塩ゆで用
 ・水 1000ml
 ・塩 小さじ2(10g)
基本のソース
 ・マヨネーズ 大さじ1
 ・プレーンヨーグルト 大さじ1
 ・オリーブ油 小さじ1
  ・塩 少々
+オレンジ色
 ・パプリカ(パウダー) 小さじ1/2
 ・鮭 一切れ(焼いてほぐしておく)
 ・ディル 好みの量
+レモン色
  ・ターメリック(パウダー) 小さじ1/2
  ・鯵の干物1尾(焼いてほぐしておく)
  ・セルフィーユ 好みの量
【作り方】
 鍋にじゃがいも、水、塩を入れて火にかけ、沸騰したら中火にして15分ほど茹で、火を止めて15分ほど放置。湯を切って皮をむき、フォークなどで適当なサイズにくずしておく。オレンジ色は、基本のソースの分量にパプリカを足してよく混ぜ、半量のジャガイモ、鮭、ディルを加えてあえる。レモン色も同様に、基本のソースにターメリックを足し、半量のジャガイモ、鯵、セルフィーユを加えてあえる。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。