エビの一番おいしい食べ方 柚子胡椒の卵とじ

水野仁輔のスパイスレッスン24

 エビは少々やっかいな食材である。

 エビはおいしい。おいしいはずなのに自分でおいしく料理するのが難しいからだ。エビに手こずっている人は意外に多いんじゃないか。エビを食べるなら外食に限る、と決めている人がいてもおかしくない。

 エビに罪はないはずなのに……。

 エビ、エビとしつこく言いすぎた。上手に調理できない理由は、加熱しすぎるとすぐ固くなるからだ。加熱しすぎるとどんどんだしが逃げてしまうからだ。じゃあ、どうしたらいいのだろう。

 しゃぶしゃぶにでもすれば最高のタイミングで口に運ぶことができそうだ。でも、そうするなら上等上質なエビを使いたい。でこぼしてサラダに加えたりするのも悪くないけれど、それならあらかじめボイルしたエビを買ってくればいい。冷凍のシーフードミックスみたいなものでもよさそうだ。

 ワクワクしない。僕はエビにワクワクしたりドキドキしたりしたいのだ。

 スーパーに行くと、冷凍のブラックタイガーが安く売られていたりする。冷凍のままの場合もあるし、解凍した状態で並んでいるものもある。手軽に手に入るのだから、なんとかしたらおいしいはずなのにおいしく調理できないというのは、完全にこちらに落ち度がある。

 まるで有能な部下を使えない上司のようでみっともないじゃないか。磨けば光る原石を手にしているのにアイドルとしてブレイクさせることができないプロデューサーみたいで残念じゃないか。うまくステージに上げられれば拍手喝采を得られるはずなのに。

 上手にエビを焼く方法は、殻をつけたままにすることだ。エビが脱いでもすごいことはもうとっくの昔からわかっている。でも、殻はむかない。油を強火で熱したフライパンにエビを並べるとジャーッと勢いよく音がたち、見る見るうちに色が変わっていくのがわかる。見えている面はまだ黒いのに、見えていない面は赤々と色づいていくのがわかる。ブラックタイガーの調理はこの変化が色っぽくていい。

 

 もうこれ以上、鮮やかにはならないというところまで赤くなったら、裏返して同じように焼く。両面がきれいに色づくころ、切り込みを入れた腹の部分が白くふくらんでおいしそうな身があらわになる。殻が身を守ってくれるから強火でいい具合に火が入るのだ。こうやって中身が見えるのがポイント。どの程度まで火が入ったかがわかるから、「まだちょっと生かな?」くらいのところですかさず、刻んだ香菜を入れ、溶き卵を加えてふたをするのだ。

 この卵には柚子胡椒(ゆずこしょう)を忍ばせておくのがいい。強火のまま10秒から15秒。パッとふたをはずして表面がうっすら半熟に輝いていたら完成。卵は、フライパンの中に出てしまったエビのだしを吸い込んでうま味を逃がさず捕まえてくれる。

 プリッとしたエビはほのかに甘く、ジュワーッとだしのうま味が口の中に染み渡る。遠くに行ってしまいそうになる僕を塩辛い柚子胡椒のピリリとした刺激が引き戻してくれるのだ。おいしい。これが冷凍のブラックタイガーだとは思えない。

エビの柚子胡椒マヨネーズ添え

 上手に火入れをできるようになったら、卵は必要ないかもしれない。ただ焼いて、柚子胡椒を混ぜたマヨネーズにつけて食べればいい。あなたの完璧なプロデュースによって、エビは人気ナンバーワンアイドルになってくれるはずだ。

エビの卵とじ 柚子胡椒風味

【材料】
ごま油 小さじ2
ブラックタイガー(背ワタを抜き、腹に切り込みを入れる) 8尾
塩 少々
香菜(みじん切り) 適量
卵 1個
柚子胡椒 小さじ1
【作り方】
 卵に柚子胡椒を加えてよく溶いておく。フライパンに油を熱し、強火にしてエビを焼く。塩を振って両面がこんがり赤く色づくまで。ここへ香菜も加える。混ぜ合わせた溶き卵を流し込み、ふたをして表面がほどよく半熟になるまで加熱する。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。