つまみにする?ご飯にかける?サバカレー

水野仁輔のスパイスレッスン21

 大学時代に打ち込んだものは色々とある。サークル活動や合コンなど、当時、大学生の定番(?)とされていたようなものには縁がなかったが、かといって授業に真面目に出たわけでもなかったから、時間だけはたっぷりあった。

 そんな中のひとつが料理だ。特に「スパゲティ・アーリオ・オーリオの研究」には精を出した。にんにくをどう切ってどう加熱するのがおいしいのか、どのタイミングで麺ので汁を加えると乳化が進むのか。ひどいときには週に4日や5日、アーリオ・オーリオばかり作っていたこともある。

 酒も弱いなりに飲むようになったからつまみにも手を出した。段ボール製の燻製くんせいキットを買ってきて、ベランダでチーズやらたくあんやら茹で卵やらを片っ端からスモークした。ずいぶん近所迷惑な学生だったと思う。

 つまみの定番はいくつもあったがそのひとつがサバ缶カレーである。

  コンビニやスーパーで買ってきたサバ缶を開け、自家製のカレー粉を混ぜ合わせてそのままコンロに乗せ(金網でも下に敷いたかな)、火にかける。

 グツグツとさせていい香りが漂ったら、そのままテーブルに運び、箸を突っ込んで食べた。芳ばしい香りとサバの風味とスパイスは見事にマッチしてビールや焼酎によく合った。

左から時計回りに、パプリカ、クミン、コリアンダー

 あのとき、油とスパイスが融合することで生まれる味わいの魅力は学んだのかもしれない。缶ごとコンロに乗せるというアイデアに酔っていたし、缶のまま食べるというワイルドさにも惹かれていた。今おもえば稚拙な行為である。

 1年じゅう割と安く手に入りやすいサバだが、この時期は、特に脂がのっていてうまい。スーパーでサバを見て「お、カレーにしてみようかな」と連想するようになったのは、学生時代の記憶が影響しているからなのかもしれない。

梅干しは包丁でたたいて細かくする

 いつかのサバ缶カレーもやってみたいのだけれど、少しは自分なりに成長の証しを確かめたい。シンプルにスパイス3種類だけで、煮ることにした。もちろん、にんにく、しょうが、玉ねぎはいためる。

 味わいのアクセントとして選んだのは、梅干しの果肉である。この独特の酸味はクセになる。落し蓋をして少な目の水分で煮るのがいい。

 できあがったサバカレーを食べて思った。これは酒のさかなかも。パプリカパウダーをレッドチリパウダーに変えたら、ウイスキーのソーダ割なんかがほしくなりそうだ。つまみ感覚が抜けないのも学生時代の名残だろうか。

 ちなみにこの料理の名前を「サバカレー」とするか「サバのカレー煮」とするかについて悩んでいる。学生時代につくっていた“あれ”も、実は、「サバ缶カレー」ではなく「カレー風味のサバ缶」だったんじゃないか、と思い始めた。カレーにサバ缶を混ぜたわけではなく、サバ缶にカレー粉を混ぜたのだから。ご飯にかけて食べたのではなく、酒のつまみにしたわけだから。

 今回の料理もネーミングが悩ましい。いわゆるカレーソースの量は少ないから、サバの煮つけがカレー風味をしているような感じにも受け止められる。その場合はやはり「サバのカレー煮」だろう。酒のつまみにしてほしい。でもご飯にかけてもうまい。その場合は、「サバカレー」となる。どっちにするかは作って食べた人に預けるとしようかな。

◆サバカレー
【材料】
ごま油 大さじ1
玉ねぎ(細かいみじん切り) 小1/2個
にんにく(すりおろし) 小さじ1弱
しょうが(すりおろし) 小さじ1弱
パウダースパイス
 ・パプリカ 小さじ1
 ・クミン 小さじ1
 ・コリアンダー 小さじ1
塩 小さじ1/4
トマトピューレ 大さじ1
梅干し(果肉を叩く) 中1個分
水 100㍉・㍑l
サバ(切込みを入れる) 2切れ
生クリーム(あれば) 大さじ1
【作り方】
鍋にごま油を熱し、玉ねぎを加えてきつね色になるまで炒め、にんにく、しょうがを加える。そこへ、トマトピューレ、梅干し、スパイス、塩を加えて炒める。水を注いで煮立て、サバを加えて落し蓋をして弱火で15分ほど煮る。あれば、生クリームを混ぜ合わせる。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。