いつもの餅に飽きたら フィッシュカレー雑煮

水野仁輔のスパイスレッスン20

 毎年欠かさず、年末にもちをつく。物心がついたころにはすでに静岡の実家の恒例行事となっていたから、覚えているだけで40年近く続けていることになる。妙なことに厳しい父親だから、大学時代に上京していても、年末の餅つきの時期に帰省しないのは許されなかった。カウントダウンを東京や海外で過ごすなんてことは夢のまた夢。実家の庭で餅をつき続けて僕は大人になったのである。

 つきたての餅はそのままひと口大にちぎって湯に投入し、「きな粉&砂糖」か「大根&しょう油」で食べた。餅が固まる前にいくつかを小さく丸め、残りは大きく広げて米袋に入れて延ばす。そのまま冷えて固まったら包丁で切る。静岡県浜松市は、角餅文化エリアだが、水野家では数は少ないが丸餅ができた。

 翌朝からは雑煮祭り。出汁だしとしょう油を合わせ、鶏肉、ニンジン、大根、里芋などが餅と一緒にゴロゴロしている。餅は焼かずに煮る。里芋が苦手な僕は里芋をよけながら食べた。かつお節をけずり器でけずるのは子供の役目だった。中学くらいになってからたかの爪を細かく切ってふりかけるようになった。年末年始は実家に帰省したせいか、昔の思い出が頭を駆け巡る。

上から時計回りにパプリカパウダー、コリアンダーパウダー、フェンネルシード

 正月が終わると、つきすぎた餅や買いすぎた餅がキッチンに余っていたりする。焼いて海苔のりでまくのも、いつもの味の雑煮にするのも、もうとっくに飽きている。そんなときはスパイスに助けてもらおう。カレー雑煮を作るのである。

 真っ先に浮かんだのは、生のトマトだった。あのうま味と酸味を雑煮にしたい。相方に選んだのは、出汁用の煮干し。これらを煮込んで餅を入れる。それだけで、仕上がりのイメージが湧く。

 メインの具が決まれば、それに合わせてスパイスを選ぶ。フィッシュカレーにはフェンネルシードとコリアンダーパウダーがよく合う。まだ正月気分が抜けない時期だから、面倒なプロセスは省きたい。

 煮干しをだしに使うとき、いつも思うのは、ザルでして捨てるのがもったいないな、ということだ。そのまま食べてもおいしいのに。だから、今回は、煮た煮干しを具にすることにした。その代わり、頭とワタを取り除いておく。そうすれば、苦味や雑味は残りにくい。

 スパイスとごま油の風味は短時間の煮込みでも十分、いい香りを生んでくれる。餅をやわらかーくなるまで煮込んだら、完成。トマトの酸味が全体の味を引き締める、さっぱり雑煮になった。

 塩でシンプルに味付けをしたが、しょう油でもよかったかもしれない。かつお節をふりかけるのもいいな。食べながら、あれこれと次のアイデアが浮かぶ。ふと思い立って、ツイッターで質問を投げかけてみた。

 「餅をおいしくいただけるスパイスって、なんだと思いますか?」

 すると……、

 「普通に七味唐辛子が好きです」

 「マスタードとブラックペッパーでジャンキーな感じはどうでしょう?」

 「きな粉にカルダモン、シナモンのパウダーを混ぜたらおいしいんじゃないか」

 「カスリメティもおいしそう!」

 「醤油しょうゆをつけたやきもちに、シンプルにクミン、コリアンダー、ターメリックを混ぜてふりかける」

 予想外の反響があった。餅とスパイスは、色々と楽しめそうだ。毎月、やろうかな、12か月間、スパイス餅。いや、飽きるかな。

◆フィッシュカレー雑煮
【材料】
煮干し(頭とワタを取る) 7g
長ねぎ(5ミリ幅の斜め切り) 1/2本
水 500ml
ミニトマト(1/4に切る) 8個
塩 小さじ1/2杯
ごま油 小さじ1弱
スパイス
 ・フェンネルシード 小さじ1/4
 ・コリアンダーパウダー 小さじ1/4弱
 ・パプリカパウダー 小さじ1/4
餅 2個(70g)
【作り方】
 鍋に煮干しと長ねぎ、水を入れて中火にかける。沸いたらミニトマトと塩、ごま油、スパイスを加えてふたをして弱火で5分ほど煮る。ふたをあけて餅を加える。餅がしっかりやわらかくなるまで弱火で煮る。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。