食べ物をおいしくするメイラードのヒミツ

水野仁輔のスパイスレッスン18

 メイラード兄弟というチームを結成したのは、2年前のことだったと思う。

 僕が兄貴分で、弟分が青森県の田子町でにんにく農家を営む種子たねこくん。2人のチームだ。キッカケは、あるイベントで種子くんが栽培している「黒にんにく」を使ったカレーを作ったこと。このにんにくが、うま味と甘味に満ちていて、カレーにするのがもったいないくらいの味わいだった。

 かねてからメイラードに興味があった僕は種子くんに声をかけ、兄弟にならないかと誘った。血のつながりがあるわけではないが、兄か弟かは年齢で決めた。以来、メイラード兄弟が何か世の中的に目立った活動をしているかというと、そういうことでもない。今年のにんにくの収穫期を迎えたときに「収穫を一緒にしませんか?」と連絡をもらったが、時間が作れずじまいだった。

左はガラムマサラパウダー、右は種子くんから送られてきたガーリックパウダー

 さて、「そもそもメイラードとは何なのか?」を説明しなくてはならない。

 僕も専門家ではないから、難しいことは言えないが、ある食材のアミノ酸と糖分が化学反応を起こすことをメイラード反応という。目に見えて認識できる変化としては、色が褐色になる。要するに、こんがりしているものにはメイラード反応が起こっているものが多い。

ヨーグルト、ガラムマサラパウダー、ガーリックパウダー、ケチャップを混ぜる

 しょう油も味噌みそもコーヒーもメイラード反応が起こっている。この反応を起こすと日本人が好きなうま味が増幅するようで、黒にんにくがうまかったのは、それが原因だと考えられる。

 カレーの世界では、「玉ねぎをアメ色になるまで炒める」のもメイラード反応が狙い。だから、メイラード兄弟の使命は日本のカレーをおいしくすることでもあるのだ。

 久しぶりにメイラード弟の種子くんから、にんにくが届いた。包みの中にはガーリックパウダーが入っている。スーパーでも割と簡単に手に入るが、チューブのおろしにんにくのほうが一般的かもしれない。

 「このガーリックパウダーをブラックペッパーや塩とブレンドした調味料のようなものを考えているんですが、なにか使い道はありますか?」。そんなメモ書きがあった。

 にんにく風味の塩こしょう、みたいなことになるのだが、真っ先に浮かんだのが、空揚げだった。おいしくなりそう。でも、弟のいう通りにするんじゃ芸がない。僕は、ブラックペッパーが重要な役割を果たすインドのミックススパイス、ガラムマサラで応用することにした。

 ガラムマサラだって、スーパーのスパイスコーナーに行けば割と手に入りやすい。ブラックペッパー以外に6~7種ほどのスパイスがミックスされていることが多いから、風味としては、さらに奥深くなりそうだ。

 あえて、たん白な味わいの鶏むね肉をチョイスしてマリネ。しかも、ここでも一ひねりを加える。ヨーグルトを使ってタンドーリチキンスタイルのマリネにしたのだ。

 鶏むね肉からしたら、タンドーリチキンになるんだな、と思いきや、衣をつけて油で揚げられるわけだから、きっと驚くことだろう。欺いているような背徳感がたまらない。そして、こういうサプライズや意外性は食べる人の元にもちゃんと届くものだ。

 短時間でカラッとこんがり色づけたら、バットにあげて余熱で火を通す。油で揚げるのもメイラード反応である。揚がった空揚げを包丁で半分に切ると、ふわっと湯気が立ち上り、透き通るように白い断面があらわになる。皿に盛り付けると、焦げ茶色と白のコントラストが美しい。

 ガーリックとガラムマサラは、脇役として控えめに香り、鶏むね肉の味わいを引き立ててくれるのだ。

 この2種類のスパイスの組み合わせをメイラード兄弟の処女作とするかどうかは、弟に相談してみようと思う。

◆鶏むね肉のタンドーリ風さっぱり空揚げ
【材料】
鶏むね肉 大1枚(350g)
マリネ用
 ・プレーンヨーグルト 大さじ1
 ・ガーリックパウダー 小さじ1/2強
 ・ガラムマサラパウダー 小さじ1強
 ・トマトケチャップ 大さじ1
 ・塩 小さじ 1/2弱
市販の空揚げ粉(小麦粉でも代用可能) 適量
揚げ油 適量
【作り方】
鶏むね肉は、水気をしっかりふき取り、ひと口大に切る。ボウルにマリネ用の材料をよく混ぜ、鶏むね肉を加えて、もみ込む。マリネは冷蔵庫に入れておくと、よりおいしい。30分でもいいが、2時間、ひと晩、と長くなればなるほど、おいしい。空揚げ粉をまぶし、180度の油でこんがりするまで揚げる。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。