ネバッ ピリッ七味が香るオクラの天ぷら

水野仁輔のスパイスレッスン13

七味唐辛子を思い切りよく衣に

 ちょっと小腹が空いたから、何か食べるものはないかなぁ、と冷蔵庫を開けると、野菜室にオクラが一袋あった。透明な袋に8本のオクラが仲良く並んでいる。その取り残されたかのような“オクラくん”たちに、なんだか急に寂しさがこみ上げてくる。

 まるで、別れを告げて部屋を出て行った彼女を見送り、途方に暮れてポツンとたたずんでいるかのような寂しさだ。僕が優秀な作詞家ならオクラで一曲、作れるかもしれない。そんな気分になるのは、きっと夏が終わってしまったからだろう。

 よくわからない天気の9月が終わり、さすがにもう秋だ。冷蔵庫にポツンといる夏野菜のオクラを、今年最後のオクラだと思ってスパイスで料理をしようと思った。

 真っ先に思いつくのはクミンシードだ。これと塩で、オクラを油でちゃちゃっと炒めれば、あっという間においしいクミン炒めになる。が、あまりに芸がないじゃないか。最後の料理にふさわしくない。少しだけ凝って、天ぷらにしようと思った。

 天ぷらの衣にスパイスを加えるのは僕の常套手段で、だいたいセリ科の種のスパイスは、どれもよく合う。クミンシードに限らず、コリアンダーシード、キャラウェイシード、ディルシードなどなど、どれでもいい。ただ、それらもなんだかヒネリがないなぁ。いや、ひねる必要なんてないのだけれど、夏の終わりを告げる料理だと思うと決め手に欠けてしまう。

 スパイスコーナーをしばらく見渡して、白羽の矢を立てたのは、七味唐辛子だった。「なんだよ、結局、普通だな」と思うかもしれない。でも、衣に混ぜ込んだ七味唐辛子の味を知っている人はあまりいないだろう。

 作り方は、天ぷらを揚げるだけ。ただ、天ぷら粉をざっくり混ぜる時に七味唐辛子を入れる。衣に混ぜ込んで油で揚げると不思議と辛味が和らぐのは、きっと油と衣で七味唐辛子が少しだけマスキングされるからかもしれない。「こんなに入れていいの?」というくらい思い切りよく使うのがいい。

 もちろん揚げたてを食べるのがおいしい。さくっとした衣の中にやわらかいオクラの食感がある。とろりとして、ねばっとする。この味わいに僕はまたオクラの悲哀を垣間見る。ほんの少し遅れてピリピリと七味唐辛子が控えめに暴れ出す。こんなとき、スパイスの風味は容赦ない。この刺激こそがシンプルなオクラのおいしさを引き立ててくれる。

 これから食欲の秋が始まる。旬の食材が満載だ。でもちょっとその前に、別れを告げたい野菜に目をやるのもいいのかもしれない。スパイスがあれば、おいしく夏にさよならできることは間違いないわけだから。

◆オクラと七味唐辛子のピリピリ天ぷら
【材料】
オクラ(4本は縦半分に切る) 8本
天ぷら粉 50g
水 50ml
七味唐辛子 小さじ1杯
揚げ油 適量
塩 適量
【作り方】
天ぷら粉と水、七味唐辛子をざっくり混ぜ、オクラをつける。180度~190度に熱した油で揚げる。器に盛って塩をふる。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。