ワイルドでシンプルなカルボナーラ

水野仁輔のスパイスレッスン11

かっこいいスパイスのつぶし方って?

 しばらく連絡を取っていなかった友達から思い出したようにメールがあった。
  「今日はフランス語でフランス人シェフが教えるフランス料理教室へ行ってきたの」
 特に用事があったわけでもないらしい。近況報告の内容である。

 「ピンク色の胡椒こしょうをドレッシングに使っていてね、そういえば、とあなたのことを思い出してメールしちゃった」
 思い出したように、ではなく、本当に思い出したのか。まあ、スパイスを見て僕のことを連想してくれるのは、うれしいことだと受け止めたほうがいいんだろうな。
 「そのシェフなんだけど、ホールスパイスの入っていた小瓶の底でホールスパイスをいきなりつぶしはじめたの。あの姿、衝撃的だった」
 「へえ、そうなの? 器の底でホールスパイスを砕くのは、僕もよくやるよ」
 「本当!? それ、超かっこいい!」
 女性の“かっこいい”ポイントは、いつもよくわからない。器の底でペッパーをつぶすのは、それが一番てっとり早いからである。スパイスクラッシャーという専用の機器を持っているけれど、わざわざ使うのは面倒だ。包丁の腹を使ってやることもできるけど、底面が丸い器の方がつぶしやすい。ただそれだけのことだ。

便利な「ミックスペッパー」粗びきではじけるおいしさ

 ときどき、色とりどりのペッパーをミックスした状態で瓶詰めで売られているのを目にする。ブラックペッパー、ホワイトペッパー、グリーンペッパーと一緒にペッパー風味のピンクペッパーも仲間入りしている。これは、見た目に鮮やかだし、なかなか使えるスパイスだから見つけたら買ってみよう。
 ペッパーと言ったらいて塩と一緒に肉にふりかけるくらいしか使い道がないように思われるかもしれないが、ペッパー&ソルトと呼ばれ、塩とセットになっているくらいだから、塩で味を決めるすべての料理と合うと思っていい。
 特に粗びきのペッパーは、香りと共に食感とかんだ時にはじける少々ワイルドな風味や辛みを楽しめるからいい。自分で挽く(つぶす)と個々のペッパーのサイズ、すなわち挽き具合が均一にならない。これがまた食べる時に意外なタイミングで風味がパッと広がったりして楽しくおいしい。

食べる直前にあえるだけ、挽きたてを演出

 たとえばペッパーをしっかり効かせたパスタの代表選手、カルボナーラを作ってみる。正式な作り方でなく、とっても簡単な方法で。スパゲティの麺をゆで、あとは、ペッパーをはじめいくつかの材料を一緒に盛り付けるだけ。食べる時に混ぜればカルボナーラになる。料理と言ったら叱られそうなほどシンプルな手順だ。
 シンプルな料理ほどペッパーの風味は際立つ。ミックスペッパーがなければブラックペッパーでオッケー。個人的な好みでいえば、卵黄もいらないくらいだ。大事なのは、ペッパーは自分の手で挽くこと。そして、もし誰かのために作るのなら、サーブするときに目の前で器を取り出し、まな板の上でゴリゴリとつぶしてみようか。「かっこいい!」と称賛される保証はないけれど、やってみる価値はありそうだ。

◆ミックスペッパーのカルボナーラ
【材料】
スパゲティ 1人分
オリーブ油 小さじ2杯
卵黄 1個
粉チーズ 大さじ1杯
ミックスペッパー(粗びき) 小さじ1/2杯弱
【作り方】
スパゲティを袋の表示通りにゆでて、ざるに上げて湯を切る。器に盛って、卵黄と粉チーズ、ミックスペッパーを盛りつける。上からオリーブ油をまわしかけて、全体を軽くあえる。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。