ジメジメ吹っ飛ばせ! アボカドとミョウガのスッキリサラダ

水野仁輔のスパイスレッスン10

 夏真っ盛りのはずなのに梅雨が出戻ってきたかのように雨が降り続き、ジメジメしまくった空気が蔓延している。なぜだろう。こんな日々から脱出したい! こんなときにスパイスに頼りたくなるのは僕だけではないはずだ。いや、僕だけなはずだ……。

 このどんよりした気分をビリビリと辛い刺激で吹き飛ばすか、スッキリとさわやかな刺激でさらりとかわすか。どうしようかと悩んでいたら、この時期に旬を迎えているあのスパイスのことを思い出した。ミョウガである。ショウガ科の多年草で、全国各地で生産されている。山地に自生しているものもあるようだ。日本を代表するスパイスといっていいのかもしれない。

 実は、「ミョウガのことを思い出す」というのは、ちょっと逆説的で面白い。なぜなら、このミョウガ、食べると物忘れが激しくなるという昔からの言い伝えがあるからだ。「茗荷宿(みょうがやど)」という落語がある。宿屋の主人が、お客さんにミョウガをたくさん食べさせ、財布を忘れていってもらおうとたくらんだが、翌朝、お客さんは宿代を払うのを忘れていったというお話。物忘れのスパイスのことを思い出すなんて。ま、こんなことを考えて喜んでいるのもきっと僕だけなんだろう。 薬味などと呼ばれてこの時期なら冷やしそうめんのめんつゆにどっさり入れたりすると大変なおいしさなのだけど、猛暑の時期ならそれでもいいが、夏なのか秋なのかわからないような気候にはあまり向いていない。とっても簡単なサラダに加えることにした。 アボカドが好きな僕が、いつも2分で作っているサラダがある。トマトやモッツァレラチーズとオリーブ油、塩で和えるだけのものである。ここにいつもなら粗びきのブラックペッパーを豪快に振りかけたりするのだが、それでは、「ビリビリと辛い刺激で吹き飛ばす」方向の仕上がりになってしまう。 そこで、ミョウガが登場する。細かく切ってどっさり混ぜ合わせる。ただそれだけ。サクサクとした軽やかな歯ごたえと共に爽快な風が吹いてくる。すっと身体が軽やかになるのがわかる。不思議と食欲もわいてくる。「よし、肉でも焼いてワイン飲んじゃおっか」となったりすれば大成功。

 ミョウガを食べて本当に物忘れが激しくなるのかどうかは定かではない(きっとそんなことはないだろうね)。学生時代の友人で、本当の物忘れではなく、「忘れた振り」のうまいやつがいた。

 僕が目の前で見た彼の行動は今も忘れられない。とびきり美人の女子に近づいていき、正面に立ってから「ええと……」と言った調子で一拍置いて、「きみ、幼稚園、一緒だったよね?」と言い放ったのである。もちろん、完全に冗談である。こんなナンパの仕方があるのか! 僕は、彼の“ミョウガ術”に感心してしまった。

 あれは忘れた振りだったのか、思い出した振りだったのか。彼はミョウガを食べていたのか、いなかったのか。今となっては確認しようがない。

 なあんて、そんなくだらない昔話のひとつでも思い出しながら作れば、あっという間にこの料理はできあがる。ほら、僕以外にもジメジメした日々からスパイスで脱出してみようとする人が出てくるはずだ。

アボカドとミョウガのスッキリサラダ
【材料・2~3人分】
ミョウガ 2個
プチトマト 7~8個
モッツァレラチーズ 1かたまり(100g)
アボカド 1個
塩 小さじ1/4杯
オリーブ油 大さじ1杯
【作り方】 ミョウガは縦に4等分にしてから厚めにスライスする。トマト、チーズ、アボカドは小さめのひと口大に切る。ボウルですべての材料を混ぜ合わせる。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。