BBQの新ヒーロー、鶏もも肉の粒マスタード風味

水野仁輔のスパイスレッスンVol8

◆鶏もも肉の粒マスタード風味焼き
【材料】
・鶏もも肉2枚(500g)
マリネ用
・プレーンヨーグルト 大さじ2杯
・粒マスタード 大さじ2杯
・粉チーズ 大さじ1杯
・塩 小さじ1/2杯
・にんにく(すりおろし)小さじ1/2杯
【作り方】
  マリネ用の材料をすべてボウルで混ぜ合わせ、鶏もも肉に塗り込んで15分ほど置き、魚焼き用のグリルで15分ほど焼く

 粒マスタードは、日常をおしゃれに彩ってくれるスパイス調味料である。どことなくヨーロッパの香りが漂うから、ちょっといいソーセージやステーキを焼いたりしたときに、器の片隅にこのペーストを添え、赤ワインのボトルを開けたりすると、落ち着いた夜や週末の友人が集まる昼下がりが華やいだ空間に様変わりする。
 この非日常感を手軽に演出できるスパイスは、普通のスーパーでも手に入り、重宝する。ところが、非日常を楽しむという点を逆に言えば、日常的には意外と使わないスパイスでもあるわけで……。冷蔵庫の中を整理していると、いつ買ったのか覚えていない粒マスタードの瓶が奥から出てきたりすることがある。粒マスタードを朝食のみそ汁に溶かし混ぜたりするようになれば、すぐに使い切るのだけれど、なかなかそうはいかない。何にでもスパイスを使えばいいわけでもない。それなら、粒マスタードを特別な日のスパイスと割り切ればいい。そして、その特別な日を増やしていくのだ。

 夏はもう始まっている。夏真っ盛りには、友人や家族とバーベキューを楽しむ機会が増えそうだ。バーベキュー。そう、まさに非日常の象徴である。ここで粒マスタードを登場させたい。

 ただ炭火で肉を焼くだけでおいしく盛り上がれるのがバーベキューだから、スーパーで適当な肉を買って、焼き肉のたれと塩こしょうを携えて準備する。これが一般的なスタイルだ。牛肉や豚肉のさまざまな部位がそろっていれば、十分にたのしめる。でも、そんなお決まりのスタイルが横行しているからこそ、バーベキューシーンに新たなヒーローを生み出してみたくなる。 そこでトライしてほしいのが、粒マスタードを使ったタンドーリチキンだ。ほんの少量のヨーグルトと一緒に粒マスタードを混ぜ、鶏肉の表面に塗るだけ。長時間、漬け込む必要もない。塗ってすぐ焼いてもおいしく食べられるのだ。家で作るなら魚焼きグリルを使ってもいい。  焼き上がりの肉に塗るスパイス調味料としての粒マスタードを焼く前の肉の下味に使う、という発想の転換が、このレシピのポイント。「明日はバーベキュー」という前日にこの下準備をしておいて、密閉容器にでも入れて現場に持ち込んでもいい。必然的に冷蔵庫でひと晩、ねむりにつくことになるから、鶏肉はよりおいしくなる。 これを“バーベキューでヒーローになれるタンドーリチキン”とでも名付けておこうか。この料理にはもうひとついいことがある。それは、焼きあがった鶏肉を見ても、どんな下味をつけたかがわかりにくいことだ。「ははぁ、粒マスタードのマリネですね」とズバリ指摘されることはなかなかないだろう。「なにこれ? どうやったの? おいしい!」という反応をひとまずみんなからもらってから、「いや実はね……」と切り出すことができるのだ。

 このとき、注意しなければならないこともある。きっとあなたはその場にいるたくさんの人による感嘆の声を聴くことだろう。「すごーい! おいしーい!」。ご満悦になる気持ちはわかるけれど、勘違いしてはならない。バーベキューでヒーローになっているのは、あなたではなく、粒マスタードなのだから。

◆鶏もも肉の粒マスタード風味焼き
【材料】
・鶏もも肉2枚(500g)
マリネ用
・プレーンヨーグルト 大さじ2杯
・粒マスタード 大さじ2杯
・粉チーズ 大さじ1杯
・塩 小さじ1/2杯
・にんにく(すりおろし)小さじ1/2杯
【作り方】
  マリネ用の材料をすべてボウルで混ぜ合わせ、鶏もも肉に塗り込んで15分ほど置き、魚焼き用のグリルで15分ほど焼く

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。