恋愛の王道? ナツメグと初夏の出会い

水野仁輔のスパイスレッスンVol5

◆キュウリのあえ物 ナツメグ風味
【材料】
キュウリ 2本
塩 少々
ナツメグ ふたつまみ
かつお節(粉)小さじ1/4杯
マヨネーズ 小さじ1杯
【作り方】
キュウリをスライスして塩をふり、しばらく置いて水気を絞る。ナツメグ、かつお節、マヨネーズで和える。

 ナツメグは、かわいそうなスパイスである。

 ハンバーグくらいにしか使われないからだ。そんなことはない! あれにもこれにも使えるじゃないか! と反論する人はそんなにたくさんいないだろう。そもそも、ハンバーグを作るのにわざわざナツメグを使う人だって少ないはず。入れたら確実においしくなるのにね。

 ツンとする癖のある香りは、肉料理全般に向いていると言われている。特に風味の強いマトンやビーフなどと相性がいい。ひき肉にもなじむから、ハンバーグに使えば肉の風味とのバランスがよい。じゃあ、メンチカツを作るときやステーキを焼くときにナツメグをふるかといえば、そうではない。ブラックペッパーという大きな牙城を崩せないのが現状だ。

 ナツメグにもっと活躍の場を。そう考える僕がオススメしたいのは、かつお節との巡り合いである。ナツメグとかつお節!? とおおいにたじろいでほしい。直感的にいえば、センスのなさそうなブレンドかもしれない。でも、これがとてもよく合う。

 第一印象は最悪だったのに、気がついたら居心地がよくなっていた、みたいな組み合わせだと僕は思っている。ある役者さんにそのことを話したら、「それ、恋愛の王道パターンじゃないですか!」と突っ込みが入った。彼にとってそれが現実の話なのかドラマの筋書きの話なのかはわからない。かつお節とナツメグで男女の恋愛を語れるとは思わないけれど、この恋は間違いなく成就するのである。

 キュウリのおいしい初夏にまもなく突入するこの時期だから、すっきりしたあえ物にでもしてみようか。スライスしたキュウリを塩で軽くもんでおいておく間にナツメグとかつお節のご対面。まな板に並べて見るとかなり似たもの同士の色合いだ。くるくるとかき回せばどっちがどっちかわからなくなりそう。

 そのまま混ぜ合わせるとナツメグはいったん姿を消す。その香りはナツメグを感じるというよりもかつお節の風味がより深まったようだ。マヨネーズのまろやかな味わいが加わればさらに風味は際立ち、きゅうりをおいしく食べられる。

 この組み合わせを発見したきっかけは、ガラムマサラというミックススパイスだった。とあるガラムマサラからなぜか、カツオの風味がしたのだ。もちろん、かつお節は入っていない。不思議だけれど、このままご飯にかければふりかけになるんじゃないかとさえ思った。そうか、この手の香りはかつお節に合うんだな。  そう思ったからガラムマサラの原料になることもあるナツメグでやってみた。ナツメグがかつお節と合うことを発見した僕は、なかなか腕のいいキューピッドだと我ながら思う。もしかしたら、かつお節が活躍する料理にはたいていナツメグを合わせられるのかもしれない。次は冷ややっこにでもふりかけてみようかな。

◆キュウリのあえ物 ナツメグ風味
【材料】
キュウリ 2本
塩 少々
ナツメグ ふたつまみ
かつお節(粉)小さじ1/4杯
マヨネーズ 小さじ1杯
【作り方】
キュウリをスライスして塩をふり、しばらく置いて水気を絞る。ナツメグ、かつお節、マヨネーズであえる。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。