余ったパクチーを救うエッグのせそうめん

水野仁輔のスパイスレッスンVol4

 パクチーは、人を選ぶ。

 フレッシュな香りがたまらなく好きで、パクチーサラダのように塩と油だけふりかければ、もりもりといくらでも食べられるという人がいる。一方で、「カメムシのような匂いが嫌だ!」と絶対に手を出さない人もいる。

 僕も昔は後者だった。あんなものを食べる人の気が知れない、と思っていたのだ。でも、いつの間にか好きになっていた。キッカケは行きつけのタイカレー専門店のママに言われたこのセリフ。「10回ガマンして食べてみて。11回目から病みつきになるから」。警戒心の強い僕があんなまやかしのような言葉を信じて実践してみたこと自体が不思議だが、ともかく、好きになっていたのだ。

  自分が好きだから、みんなにも食べさせたいかどうかは別の問題だ。カレーパーティーをするときにパクチーを買った。カレーの仕上げにこいつをドサッと加え、混ぜ合わせて煮るとおいしい。でも、ドサッとやる前に必ず確認するようにしている。

 「パクチー入れていい?」

 「やだ」という人が1人だけいたから、カレーに加えることはあきらめた。パクチーが人を選ぶから、僕は、使う前に人がパクチーを選ぶことにしているのだ。選ばれなかったパクチーは、冷蔵庫に取り残されることになる。

 パーティーが終わる。2日がたち、3日がたった。冷蔵庫にパクチーがあることを忘れてしまっていた。4日目に発見。あ!先週末のパーティーで使わなかったパクチーだ。この現象は意外といろんな家庭で起こっているんじゃないかと思う。

 パクチーはいつまでも新鮮でパリッとしているとは限らない。何日もたてば色が変わり、しおれてきてしまう。「シャキッとしなさい!」などと声をかけたところで、しおれてくたびれたパクチーはよみがえらない。サラダにして食べよう、というのは無理があるが、ガッカリするのはまだ早い。

 少しくらい見た目が悪くなっていても、味が落ちているわけではないからだ。髪の毛を金髪にした不良生徒だって、見た目の印象と違って、本当はいいやつだったりするのと同じだ。そんなときは優秀な教師にでもなったような気持ちでパクチーのいいところを見つけ、引き立ててあげるのがいい。

 僕は知ってるよ。見た目が変わったって、君の本質はぶれていないってことを……。

 おいしく食べる方法はいくらでもある。簡単でオススメなのは、刻んで炒めることだ。適度な油を熱し、パクチーを炒めて塩を振る。みるみるうちに香りが立ち上ってくるのがわかる。ふと思い立って、溶き卵を混ぜてみることにした。そのままスクランブルエッグにしてもいいのだけれど、平たくのばしたままじっと我慢して、クレープ状に焼けたら細切りにする。

 目の前にできあがったパクチーエッグは、そうめんのようだ。それで思いついた。そうめんにトッピングしよう。こんな風に思いを巡らせながら調理を進めると、しおれたパクチーの持つポテンシャルにずいぶん楽しませてもらっている自分がいることに気づく。パクチーはパリッとしていても、しなっとしていてもうまい。

 立派な見た目をしているときが常にベストとは限らないのは、人と同じなのかもなぁ。

◆パクチーエッグのせ そうめん
【材料】
香菜(パクチー・ざく切り) 4~5株
溶き卵 2個分
サラダ油 少々
塩 少々
そうめん 2人分
めんつゆ 適量
【作り方】
 フライパンで香菜を炒め、塩と溶き卵を加えて焼く。まな板に移して細切りにし、そうめんの上にトッピングする

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。