飾らない君を見たいサワラのターメリック焼きご飯

水野仁輔のスパイスレッスンVol3

 裏表のない人というのはいるけれど、表に見せている姿と裏側の姿が全く同じだという人はなかなかいないだろう。深夜に部屋着のままコンビニに行くくらいならまだしも、日中に外出するなら、服を着替え、髪を整えて、履いていく靴くらいは選びたい。それが“よそいき”というものである。

 ところが、この“よそいき”にその人の本当の魅力が表れているとは限らないから面白い。「着飾ったキミよりも、飾らないキミが好き」みたいな、ね。

 先日、春に旬を迎えるサワラを使ったスパイス料理の撮影があった。マサラフライというちょっとだけ手のかかる“よそいき”料理を披露し、撮影が終わったとき、ひとパックだけサワラの身や切れ端が残った。さて、このサワラをどうしようか。着飾る必要のなくなった魚が目の前にある。僕は、異様にいとおしくなって、調理を始めることにした。

 魚の下処理といえば、欠かせないのがターメリックである。塩をふった魚にターメリックとレモン汁をもみ込むのは、インドでも魚介類料理には定番となっている手法だ。こうすることで、魚の臭みがするっと抜け、本来の味わいがじんわりと浮かび上がる。ターメリック、すなわちウコンにはそんな力がある。

 いつもより少し多めに塩をふって、魚焼きグリルに無造作に並べ、強火で豪快に焼く。切り身の端っこが黒く焦げ付くくらいでちょうどいい。焼きあがったら、まな板にのせて包丁で執拗にたたく。愛着がわいているとは思えない行為に見えるかもしれないが、愛情あってこその“たたき”である。

 ターメリックのほのかに土臭い香りと青ねぎのフレッシュな香り、ごま油の適度にクセがあってふくよかな香りが入り混じる。ああ、白いご飯が今すぐほしい。こういう普段着の料理にこそ、素材の魅力は宿るのだと思う。だから、僕はきっと、「飾らないキミが好き」派なんだろうな。

 この料理は、サワラに限らない。旬の魚を買ってきて料理に使い、余ったら作ればいいのだ。すると魚が二つの顔を見せるというわけ。魚の表向きの姿は誰でも知っている。レストランや居酒屋や定食屋に行けば、立派に煮たり焼いたりしている姿を見られるからだ。ところが、魚の裏の姿は、自炊をする人にしかわからない。恥ずかしいところを見られても大丈夫な環境。そこで活躍するスパイスがターメリックなのである。

 旬の魚に心を許されるターメリック。旬の魚が隙を見せるターメリック。なんと特別な存在だろうか。そういう意味で言えば、ターメリックは、「いつもそばにいてほしい人」なのだ。キッチンの片隅に置いて、なにかにつけてパッパッとふりかける。サワラもターメリックになら本当の自分を見せられるのだから。

 そのうち、「ターメリック男子」や「ターメリック女子」がもてはやされる日がくるのかもしれない。ちょっとネーミングがイマイチだけれど。

◆サワラのターメリック焼きごはん
【材料】
サワラ(または旬の魚) 4~5切れ程度
ターメリック 小さじ1/2
レモン汁 小1個分
塩 小さじ1/2
青ねぎ(みじん切り) 適宜
ごま油 小さじ2
ごはん 適宜
【作り方】 サワラに塩をふり、ターメリックとレモン汁をもみ込んで20分ほど置く。グリルで焼いて包丁でたたき、青ねぎとごま油を混ぜ合わせてごはんにのせる。

水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。